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 ソニーグループ(以下、ソニー)は、2022年1月4日にテクノロジー見本市「CES 2022」で開催したプレスカンファレンスの中で、EV(電気自動車)ビジネスへの本格参入を検討していることを明らかにした。22年春には自動車ビジネスの事業会社である「ソニーモビリティ」を設立し、AI・ロボティクス技術を活用したモビリティー体験の進化や提案をさらに加速させるとしている。米Apple(アップル)もEVビジネスへの参入が以前から噂されており、異業種で大きな存在感を放つ企業が、今後続々と自動車ビジネスに参入してくる可能性がありそうだ。

 日本の基幹産業である自動車では、既存企業各社のEVシフトや自動運転への対応が注目さている。こうした中で現れたまっさらな新規参入企業、それも広く名の知られた企業の参入は、新しい価値を生み出す何かが動き出す可能性を感じさせる。

 現時点でソニーが自動車ビジネスへの参入を正式に決定したわけではないが、テクノ大喜利では、同社参入の意義、既存ビジネスとのシナジー、新たに生み出される価値などについて議論した。今回の回答者は、アーサー・ディ・リトル・ジャパンの三ツ谷翔太氏である。同氏は、ソニーグループには、中長期的な観点から見ると、自動車関連のビジネスが驚くほど多彩に存在することを指摘。そのソニーグループが自動車をビジネス化することで、「人間」と「社会」に向けた新たな価値を創出できる可能性を指摘している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
三ツ谷 翔太(みつや しょうた)
アーサー・ディ・リトル・ジャパン パートナー
三ツ谷 翔太(みつや しょうた) 世界最初の経営戦略コンサルファームであるアーサー・ディ・リトルにて、製造業やインフラ産業に対するイノベーション戦略の立案・実行支援、ならびに官公庁に対する産業政策の立案支援等に従事。昨今はカーボンニュートラルなど、複数業界を巻き込んだ新たな社会システムの創出に注力。主な著書に、2040年に向けた日本の社会・産業・企業の変革方向性を提唱した『令和トランスフォーメーション -コミュニティー型社会への転換が始まる-』『フラグメント化する世界 ーGAFAの先へー』(いずれも日経BP)。
【質問1】ソニーが自動車ビジネスに参入する意義は何か?
【回答】産業・社会の再定義時代への布石

 これまでソニーは、自動車の自社でのビジネス化は表明していなかった。ところが、この度その姿勢を一転し、自動車ビジネスへの参入を検討すると発表した。その意義は、同社CEOの吉田憲一郎氏が語った「ソニーはモビリティーを再定義する」という言葉に集約されているように思う。

 EV化が進展する中で、従来から異業種による自動車ビジネスの参入可能性はしばしば議論されていた。もちろんそれはハードルが高い話であり、できない理由は多数存在する。例えば、人の命を預かる自動車に求められる安定品質の担保や、その大量生産も担保すること。また、特に自動車部品サプライヤーにとっては既存顧客のビジネスを侵食するというジレンマがあることも挙げられる。これらは、今日においても大きな課題であることには変わりはない。

 しかしながら、中長期視点に立てば、それらのボトルネックは変わる可能性がある。自動運転などの技術進展の中での自動車の使われ方や要求事項の変化。自動車の開発・生産を受託するODM(相手先ブランドによる設計・製造)の台頭。異業種からの自動車ビジネス参入の機運。これらは従来の産業構造を抜本的に変革するイネイブラー(手助けするもの)となるからだ。

 また、各所で耳にすることが多くなった「人間中心」という考え方。これは、従来のように「自動車」という手段/提供者視点でこのビジネスを捉えるのではなく、「モビリティーや人」などの観点から自動車ビジネスを考えていかねばならなくなることを意味する。つまり、「自動車ビジネス」という捉え方自体がナンセンスな時代が来る可能性がある。

 このような産業・社会が大きく再定義されうる時代において、従来から「人間中心」を掲げてきた同社が新たな構想を発表することは、同社のみならず、日本の産業界全体にとって意義があることに思える。