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 世界中の自動車メーカーが、モノ売りビジネスを脱し、移動手段の提供や人やモノが移動することで生まれる情報を提供するコト売りサービスのビジネスを立ち上げようとしている。「MaaS(Mobility as a Service)」は、その一例だ。ただし、現時点で、自動車メーカーのビジネスがモノ売り中心であることには変わりない。また、顧客の多くが、自動車メーカーに期待していのは、魅力的なモノであるクルマの開発・提供である。

 だから、MaaSなどへの取り組みも、どこか本気度が今ひとつ感じられない。まさに、イノベーションのジレンマに直面しているのが、現在の自動車メーカーではないか。こうした局面が大きく動き出す可能性があるとすれば、他業界が生み出したイノベーションが自動車業界に押し寄せることではないか。

 ソニーが、自動車ビジネスへの参入を検討していると発表したことを受けて、その意義、既存ビジネスとのシナジー、新たに生み出される価値などについて議論しているテクノ大喜利。今回の回答者は、Grossbergの大山 聡氏である。同氏は、消費者の価値観を変える提案を過去にしてきた実績を持つソニーが、イノベーションに及び腰の自動車業界の外圧となって変革の潮流を活性化させる可能性を指摘している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
大山 聡(おおやま さとる)
Grossberg 代表
大山 聡(おおやま さとる) 1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年よりIHS Markitで、半導体をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。2017年9月に同社を退社し、同年10月からコンサルティング会社Grossberg合同会社に専任。
【質問1】ソニーが自動車ビジネスに参入する意義は何か?
【回答】本来のソニーらしさを発揮すること

 ソニー創業者の盛田昭夫氏は、かつて、「マーケット調査には頼らない。顧客に対して『何が必要ですか』と聞いてから製品を開発したのでは遅すぎる」と主張していた、と聞いている。そうでなければ、ヒット商品「ウォークマン」は生まれなかっただろうし、ソニーが世界に飛躍するキッカケになった「ポケットに入るラジオ(ポケッタブルラジオ)」も生まれなかったに違いない。

 1955年、5個のトランジスターを内蔵したラジオ「TR-55」のカタログには、「ラジオはもはや、電源コード付きの時代ではありません」という説明があり、ラジオという製品のイメージを大きく変えるインパクトがあったそうである。ソニーの例ではないが、米Apple(アップル)のスティーブ・ジョブズ氏が世に送り出した「iPhone」も、マーケット調査の産物ではない。ユーザーに聞くまでもなく、「これは受け入れられる」「今までの価値観を変えられる」という確信がこれらのヒット商品を生み出している、と考えるべきだろう。

 ポータブル機器の成功例ばかり並べてしまったが、クルマという移動空間の中で、どのような娯楽が楽しめるか、どのようなサービスを提供できるか、という新たな発想は、今まで持ち運びができなかったモノを持ち運べるようにする、という発想と共通する部分があるように思う。

 ただし今度の対象は「モノ」というよりは、娯楽とかサービスといった「コト」に変化している。かつてはトランジスターとか電池といった「モノ」を組み合わせて新商品を生み出していたが、今度はクルマの中で活用しうる「コンテンツ」を組み合わせて新商品を生み出す工夫が必要になるのではないだろうか。当然のように、その中に「正解」は存在しない。

 CASE(つながる車、自動運転、シェアリング、電動化)の普及とともに激変している自動車業界において、従来の価値観の延長に解が存在しない以上、マーケット調査だけではたどり着けないような商品が、ソニーから提案されるかも知れない。それこそが、本来のソニーらしさだと筆者は期待している。