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 世界の中での日本の産業競争力を強化するために何をしたらよいのか。政策や経営学を専門とする方々がこうしたテーマを議論する際、しばしば出てくる話題がある。それは、「既存ビジネスを覆すような圧倒的な力と革新性を持ち、巨大な実利を生み出すGAFAのような企業は、なぜ日本から生まれてきていないのか」という疑問だ。GAFAがやっていて、日本のIT企業や電機メーカーがやっていない何かがあるのだろうか。

 ソニーグループ(以下、ソニー)が、EV(電気自動車)による自動車ビジネスへの参入を検討していると発表したことを受けて、その意義、既存ビジネスとのシナジー、新たに生み出される価値などについて議論しているテクノ大喜利。今回の回答者は、元 某ハイテクメーカーの半導体産業OB氏である。同氏は、ソニーの自動車ビジネス参入に、単なる業績改善以上の狙いを嗅ぎ取っている。そして、同社の取り組みが、GAFAが成功した7つの要因に通じる、飛躍の可能性を備えていることを指摘している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
半導体産業OB(はんどうたいさんぎょうOB)
某社リサーチャー
半導体産業OB(はんどうたいさんぎょうOB) 半導体産業をはじめとする電子産業全般で豊富な知見を持つ某ハイテクメーカーのOB。某国公認会計士でもある。現在は某社でリサーチャーを務め、市場の動きをつぶさにウォッチしている。
【質問1】ソニーが自動車ビジネスに参入する意義は何か?
【回答】セックスアピール

 約20年前、世紀が変わるころ、得意の絶頂にあったソニーは、瞬く間に没落し、リーマン・ショックの頃には病人に例えられるようになった。そこから、見事に復活してきたソニー。利益は、過去最高を更新したが、ただ、まだ取り戻せていたいものがある。それがセックスアピールである。

 日本語では「色気」になるが、米国では、米Apple(アップル)、米Tesla(テスラ)製品の購買誘因になっていると言われている。つまり、その会社の製品を持っていることで、異性にモテる。または、異性にモテたいがために、特別な1ランク上の自分を演出するために購入したくなるブランドパワー。それが、ここで言う「セックスアピール」である。

 かつての、ソニー製品にはそれがあった。2000年までは、テレビでも、「ウォークマン」でも、ソニー製品には価格にプレミアムが乗っていた。「ソニーだから高いんです」と秋葉原の電気店の店員が当たり前のように説明していたし、消費者もそれが当然だと思っていた。

 私も05年くらいまでは、ピュアにソニーファンで、経済的にも余裕があったのでソニー製品を何かにつけて買っていたものだ。しかし、最新のデジカメは、充電終了直後から「バッテリー切れ」のメッセージが出て、その数カ月後に一斉無料交換。液晶テレビの「エアボード」は見づらくてたまらずお蔵入り、HDDレコーダーの「コクーン」も使いづらくて企業関係者からも「そんなの買うなんて」と言われる始末。パソコンの「VAIO」も2台購入したが、あまり満足できるレベルではなく、わが家では06年以降、ソニー禁止令が出されてしまった。私は、ソニー製品を買いまくった揚げ句にこうなったのだから、あまり、恨まないでほしいソニーさん。

 ちなみに、日本の家電の作り込みのレベルはどんどん下がっていて、わが家では、他にも2、3社、購入禁止になったブランドがある。ソニーは、スマートフォン(スマホ)ではAppleになれなかったが、ぜひ、自動車ではTeslaになってほしい。そして、ソニーの「自動車に乗る=カッコイイ=絶対モテる」、という連想が働くような、過去の栄光を取り戻してほしい。その境地に至ることで、ソニーは利益という身だけでなく、ブランドという心の復活も成し得たことになるだろう。