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 ソニーグループ(以下、ソニー)の事業の中で、ある意味、最も異彩を放っているビジネスが金融・損保ビジネスであろう。技術やエンターテインメントとは違った専門性が求められるこのビジネスは、一般消費者がソニーに対して思い描くイメージからは遠いビジネスである。

 ただし、エレクトロニクス関連の企業では、グループ内で、本格的な金融・損保事業を行っているところは意外と多い。韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は、関連企業に韓国最大の保険会社であるSamsung Life Insurance(サムスン生命)があり、そうした金融関連の豊富な資金が同社の成長期に効果的に働いたといわれている。また、米General Electric(ゼネラル・エレクトリック)も金融・保険会社を保有していた。

 ソニーが、自動車ビジネスへの参入を検討していると発表したことを受けて、その意義、既存ビジネスとのシナジー、新たに生み出される価値などについて議論しているテクノ大喜利。今回の回答者は、MTElectroResearchの田口眞男氏である。自動運転車には、事故が発生した際の責任の所在について、これまでとは違った課題を抱えている。同氏は、ソニーが自動車ビジネスに参入することで、自動運転車と損保を一体化させた新たなビジネスモデルを提案してくる可能性を指摘している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
田口 眞男(たぐち まさお)
MTElectroResearch 代表
田口 眞男(たぐち まさお) 1976年に富士通研究所に入社とともに半導体デバイスの研究に従事。1988年から富士通で先端DRAMの開発・設計に従事。メモリーセル、高速入出力回路や電源回路などアナログ系の回路を手掛ける。2003年、富士通・AMDによる合弁会社FASL LLCのChief Scientistとなり米国開発チームを率いてReRAM(抵抗変化型メモリー)技術の開発に従事。2007年からSpansion Japan代表取締役社長、2009年には会社更生のため経営者管財人を拝受。エルピーダメモリ技術顧問を経て2011年10月より慶應義塾大学特任教授、2017年4月より同大学の先端科学技術研究センター研究員。技術開発とコンサルティングを請け負うMTElectroResearchを主宰。
【質問1】ソニーが自動車ビジネスに参入する意義は何か?
【回答】ソニーらしさの表現と最終製品を持つ見栄、どうせなら日産を買収して業界再編

 ソニーが試作し、2020年の「CES 2020」で発表したEV(電気自動車)は流麗な形で高級感があり、将来有望な機能を鋭意盛り込んだ意欲作だと思う。だが、「ソニーにしてやられた」と既存メーカーが悔しがるような自動車を再定義するイノベーションはあるのだろうか。どちらかと言うと将来の高級SUV(多目的スポーツ車)のステレオタイプに見える。

 技術検証用の試作ならばルネサス エレクトロニクスも行っており1)、パートナーとなる組み立て会社があれば、大学ですらできる。実際に自動車産業に参入する2)となると、量産用パーツをどう集めるのか、販売方法やメンテナンス体制、など課題山積だろう。自動車は形も寸法も性能も既存の常識の範囲にならざるを得ないし、社会インフラとの関連も強い。家電やゲーム機に比べて「重たい」事業であり、国にもよるが特に日本などは「飛んだこと」ができないと思う。その制約の中で各社の生き残りをかけた戦いが展開される。

それでも自動車を事業化

 普通ならば黒子として自動車メーカーにセンサーやモジュールなどを提供してガッポリもうけるビジネスモデルを追求するだろうが、それではソニーらしさが表現できない。自動車ビジネスへの参入は、自社で思い通り最終製品まで作ってカッコよさをアピールすることと、パーツサプライヤーでいるよりも頂点に立ちたいという、いわば見栄だと思う。

 米Apple(アップル)が自動車を作る噂は絶えないが、先手を取ったように感じる。本来ソニーはAppleとどこか似たイノベーションカンパニーであり、スマートフォン時代以前はむしろソニーが先輩格だった。自動車で先行して成功すればGAMA(Google、Apple、Meta Platforms(旧Facebook)、Amazon.com)に比肩できる立場になれる。AppleだってiPhoneの生産は外部委託なので同じやり方の「アセットライト」ならば経営資金問題もないと考えたのだろう。そこは自社でゼロから生産ラインを立ち上げバッテリーにも投資している米Tesla(テスラ)との大きな違いであり、アセットライトで済むのなら、Teslaの苦労は何だったのかと思う点でもある。

 見栄はしばしば失敗の元であるが、この際、ネガティブに捉えないことにしよう。近年の日本企業の経営は見栄よりも実質を取り、危ない橋は渡らず、金融緩和マネーがあふれていても使い道が見つけられず預金してしまう傾向がある。こうした中で、ソニーの判断は勇気があると思う(まだ最終決定ではないようだが)。電機各社が半導体事業を切り離した中で、ずっと自社工場でセンサーを生産し、ロジックのチップを入手しやすくするために、熊本にある工場のお隣に政府と一緒になって台湾TSMCを呼び込み出資もする。いろいろ曲折があり批判もされたソニーではあるが、攻めの経営を貫いている。その成果か、2022年第3四半期には、過去最高の営業利益を得ている3)

業界再編、日産を買収すべき

 ソニーは、ファブレス水平分業モデルを想定しているようだ。試作はオーストリアのMagna Steyr(マグナ・シュタイヤー)が担当したが、ここが半導体におけるTSMCのような存在になって低コストで量産できるかにかかっている。

 TSMCが合理的な理由は、各社がそのPDK (Process Design Kit)に従ってチップを設計するため製造を共通化でき、生産コストを下げられる点にある。自動車でそれをやるならば、どの会社も同じシャーシで同じサスペンション、つまりトヨタ自動車で言うところのTNGAプラットフォームのように共通化し、違いは極論すれば制御ソフトとボディーデザインくらいにする必要があるだろう。

 それでソニーが満足するとは思えず、もしも自社専用生産ラインを要求するならば、それなりにコストは高くなる。自動車生産の水平分業モデルはまだ確立していないので、今後が注目されるが、Teslaはそれを考えてか自分で生産工場を作ってしまった。ソニーも、自動車ビジネスを本気で行うのならば、アセットライトなどと言わず、自社生産に方針を切り替える必要があるのではないか。ゼロからのスタートは時間がかかるので、この際、日産自動車を買収したらどうだろうか。これでやっとトヨタやヨーロッパの強豪と対抗できるベースができる。業界再編で日本を再び製造大国にできるかもしれない。

■参考文献
1)「ルネサス、完全自動運転車を試作」、日本経済新聞、2017年1月3日
2)「ソニー、EV参入 独自ブランドで販売検討」、日本経済新聞、2022年1月5日
3)「ソニーG営業益1.2兆円 22年3月期、3度目の上方修正」、日本経済新聞、2022年2月2日