全5325文字
PR

 これからのサーバー用プロセッサー市場では、競争力の高いCPUとFPGAを両方保有しているメーカーでなければ、トップメーカーとはいえない時代になりそうだ。通信やセキュリティー関連の処理を高いエネルギー効率で実行し、かつ機能を書き換え可能なアクセラレーターが求められるからだ。

 サーバー用CPUのトップメーカーである米Intel(インテル)は、FPGAでシェア2位の米Altera(アルテラ)を買収済みだ。ただし、強いはずのCPUで、さらなる微細化の推進に不安を抱えている。米AMDは、FPGAでシェア1位の米Xilinx(ザイリンクス)の買収に成功。台湾TSMCの最先端プロセスを活用して競争力を高めているCPUと合わせて、Intelを追撃する体制を整えた。サーバー用プロセッサーの市場では、両社の競争が激化することだろう。

 対Intel、対NVIDIA、対独自チップという3つの対立構図を想定し、AMDの今後の戦略と行方を考える際の論点・競争要因について議論しているテクノ大喜利。今回の回答者は、服部コンサルティング インターナショナルの服部 毅氏である。同氏は、Intel、米NVIDIA(エヌビディア)、そしてAMD各社の直近のM&A(合併・買収)や戦略の実施状況とそれぞれのビジネスへの影響を整理。今後の各社ビジネスの行方を追う際の論点を指摘している。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
服部 毅(はっとり たけし)
服部コンサルティング インターナショナル 代表
服部 毅(はっとり たけし) 大手電機メーカーに30年余り勤務し、半導体部門で基礎研究、デバイス・プロセス開発から量産ラインの歩留まり向上まで広範な業務を担当。この間、本社経営/研究企画業務、米国スタンフォード大学留学、同大学集積回路研究所客員研究員なども経験。2007年に技術・経営コンサルタント、国際技術ジャーナリストとして独立し現在に至る。The Electrochemical Society(ECS)フェロー・終身名誉会員。マイナビニュースや日経クロステックなどに、グローバルな見地から半導体・ハイテク産業動向を随時執筆中。近著に『メガトレンド半導体2014-2023』(日経BP)、『2ケタ成長 光ファイバー・半導体』(毎日新聞出版)、『有機EL・半導体バブル』(毎日新聞出版eBOOK)、『半導体・MEMSのための超臨界流体』(コロナ社)がある(共に共著)。
【質問1】CPUの領域で、AMDとIntelの競争の行方を考える際に、注目したい指標・論点・競争要因は?
【回答】IntelはTSMCの活用、AMDはXilinxの活用に注目

 AMDの2021年1~12月通期の売上高は、前年比68%増の164億3400万米ドルと過去最高だっただけではなく、大手半導体企業の中でも成長率が最高だった。一方、米Intel(インテル)の売上高は前年比わずか1%台の増加にとどまった。世界の半導体業界全体の成長率は26%だったので、絶好調のAMDと不調で停滞継続のIntelという構図になった。しかも、AMDは、2022年に31%という高い成長を予測しているのに対して、Intelはほとんど成長しない予想を立てている。

 しかし、売上高の絶対額で比べると、IntelはAMDの5倍近い年間売上高800億米ドル弱の巨大企業である。このところ両社の差は徐々に縮まってきており、買収したXilinxの売り上げが加われば4倍近くにまで縮まる見込みである。

微細化で苦戦のIntelとTSMC活用し微細化進めるAMD

 Intelは、ロジックデバイスの微細化に長年にわたり苦戦している。「Skylake」と呼ばれる14nmプロセスで立ち上げに時間を要しながら何とか立ち上がったものの、「Ice Lake」と呼ばれる10nmプロセスのチップ製造は予想以上の困難に直面。市場投入は、当初の目標より3年遅れの2019年末となった。しかも、発表後も製造上の問題により、本格的な生産は2021年まで遅れてしまった。この間、IntelはCPU製造を14nmプロセスに戻してやり直さなければならなかった。

 AMDは、このようなIntelの失態を横目で見て、2018年に7nm以降の微細化をあきらめた米GlobalFoundries(グローバルファウンドリーズ、元はと言えばAMDの半導体製造部門)にあっさり見切りをつけてTSMCに製造委託先を変更した。そして、TSMCの先端プロセスでCPU/GPUを製造し、競合のIntelが迷走していた間隙を突いてデバイス性能の差異化を図りシェアを大きく伸ばすことに成功した。

 一方、Intelは、微細化プロセスでの差をアーキテクチャーとソフトウエアと実装技術でカバーしようとした。2020年当時のIntelのCEO(最高経営責任者)だったBob Swan氏は、トラブル続きの製造をすべて外部委託に切り替える検討を行っていたが、失脚により最終判断を新CEOのPat Gelsinger氏に委ねた。同氏は、先端製品はTSMCに製造委託しつつ、内部の立て直しを図り、数年後には微細化でTSMCに追い付く作戦を立てた。そして、同氏は資金力でAMDを押しのけてTSMCの最先端プロセスを真っ先に手に入れようとしており、そうなればAMDのプロセス上の優位性はなくなってしまう。この点で、Intelが資金力にものを言わせて、AMDを差し置いてどのようにTSMCを活用するか注目される。

AMDとXilinxとのシナジー効果にも注目

 一方、AMDは2022年2月14日(現地時間)、2020年10月に発表したXilinxの買収を完了したと発表した。AMDはFPGAをCPUのアクセラレーターとして意のままに活用できるだけではなく、XilinxのFPGA関連のリソースとエコシステムを丸ごと手中にした。さらに、Xilinxの得意とする航空宇宙、軍事防衛、自動車、医療など特定の産業分野に向けたソリューションまで領域拡大し、幅広い成長市場で製品の拡大と新規顧客の獲得ができるようになった。

 AMDのXilinx買収成功の報に接して思い出すのが、2015年のIntelによるFPGA業界2位のAlteraの買収である。筆者は2014年に米国シリコンバレーのAltera本社を訪問した際、データセンター向けには同社のFPGAがIntelのCPUよりも電力効率や性能が高く、コストが安いと、Intelを徹底的にライバル視した主張を聞きびっくりした。IntelとAlteraとが競合するような話はそれまで聞いたことがなかったからだ。間もなく、Intelが敵対的買収も辞さないとばかりにAltera買収を仕掛けてきた。Alteraは拒否し続けたが、結局は根負けして買収され、Intelは、ライバルを身内にしてしまった。

 これとは対照的にAMDは、Alteraよりも規模も実力も上のFPGA業界の雄であるXilinxを友好的に買収することにより、データセンター分野におけるポートフォリオのさらなる拡充を進められるようになる。Intelの後塵(こうじん)を拝し存在感の薄かった万年2位のAMDが強力な助っ人を獲得してどのように打倒Intelに動くか注目される。