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【質問3】応用を問わず、AMDなどの(IntelやNVIDIAも含む)標準チップと、独自チップのシェアの行方を考える際に、注目したい指標・論点・競争要因は?
【回答】コストダウンと用途拡大により、独自チップがシェア拡大

 ここまで述べてきたのは、CPUとGPUの標準チップの話である。

 しかし、米国の巨大IT企業を中心に、自社の製品やサービス向けに独自チップを開発する動きが本格化してきた。経営学者のMichael Porter氏が提唱した5つの競争要因に基づくと、標準チップで競争していた業界に対し、独自チップによる「新規参入の脅威」がある構図と言える(図2)。

図2 プロッセッサーにおける標準チップ業界への独自チップによる新規参入の脅威
図2 プロッセッサーにおける標準チップ業界への独自チップによる新規参入の脅威
出典:筆者が作成
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 米Google(グーグル)は、2021年5月中旬に開催したオンラインイベントで、プロセッサーの独自チップ「TPU(Tensor Processing Unit)」の最新版を発表した。TPUはAIの機械学習向けに特化したチップであり、Google Cloudに実装されて、画像認識や自然言語処理といった領域のクラウドサービスに利用される。GoogleはTPUを約4100個搭載し、スーパーコンピューター並みの性能を持つ計算システムも同時発表した。

 米Apple(アップル)は、2020年11月以降のパソコン新製品に、プロセッサーの独自チップ「M1」を搭載した。CPUやGPUをひとまとめにして、AIの計算を高速で処理できる。同社のパソコンではこれまで、IntelのCPUを使っていたが、独自チップに切り替えたのだ。

 米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)は、2018年11月にAWS(Amazon Web Service)で使うサーバー向けに独自チップ「Graviton」を発表した。Amazonは、世界最大のEC(Electronic Commerce:電子商取引)サービスとともに、クラウド事業であるAWSでも大きな利益を上げている。Gravitonは、エネルギー効率に焦点を当てて設計されている。Amazonは世界中で稼働させているAWSの数百万台のサーバーを、IntelのCPUが搭載されたサーバーから、独自チップGraviton搭載サーバーに切り替えることにより、大幅に電力コストを削減できる。

 なお、Gravitonは、英Arm(アーム)の協力を得て開発された。Armは、英国にあるプロセッサーや周辺技術の設計・開発に特化した会社である。

 以上のIT関連企業の事例から、標準チップと独自チップの差異は明らかである。標準チップは、多くの企業が利用できるように設計されたサーバー向けであり高い汎用性が求められる。しかし、汎用性のある標準チップは、どのようなサービスにも対応できる反面、効率化や高速性能など性能面で妥協したものと言える。これに対して、独自チップは、自社の特定用途に対し効率化や高速性能など性能面を追求することができる。特定用途としては、AIの高機能・高速化や低消費電力に焦点を当てた事例を示した。

 それでは、標準チップに対して、どのような要件があれば、独自チップが適用されるのだろうか。独自チップが適用される領域を、図3に示す。

図3 標準チップと独自チップの適用領域と領域拡大の方向
図3 標準チップと独自チップの適用領域と領域拡大の方向
出典:筆者が作成
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 まず、Google、Apple、Amazonのように、企業規模が大きいだけでなく、AmazonのAWSのように、独自チップの適用先の事業規模が大きい必要がある。事業規模が小さいと、性能面で妥協しても標準チップを用いざるを得ない。

 また、独自チップを用いることで得られるメリットが大きい必要がある。Amazonの事例では、多数のサーバーを用いているため、低消費電力という特定領域に焦点をあてた独自チップが大きなメリットをもたらす。Google、Appleは、AIという特定用途に焦点を当てることにより、大きなメリットをもたらす。このため、図3に示すように、事業規模が大きく、独自チップによるメリットが大きい領域で、独自チップが適用されると言える。

 では、標準チップと独自チップのシェアの行方はどうなるのか。独自チップの設計・生産は、設計・開発に特化したArmや、ファウンドリー(半導体受託生産)の台湾TSMCがあって初めて可能になる。これらの企業は、独自チップの生産規模が拡大すれば、経験効果と規模の効果によりコストダウンが期待できる。また、応用範囲も、AIや低消費電力だけでなく、適用可能な用途が拡大していくと期待できる。

 標準チップと独自チップのシェアの行方を考えると、独自チップのコストダウンと用途拡大によって、独自チップが適用される領域が拡大すると予想される。以上述べてきたことから、AMDは、競争に勝っていくためには、CPUとGPUで攻撃的チャレンジャーの戦略を貫くことが重要と考える。