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 ITサービスを提供するGAFA(Google、Apple、Facebook〔現Meta〕、Amazon)や自動車メーカーの米Tesla(テスラ)など、さまざまな分野の巨大企業が、独自チップを開発し、自社の製品やサービスの競争力を高めるようになった。現時点では、米AMDや米Intel(インテル)のような半導体メーカーが開発・販売する標準チップの利用が、データセンター向け、PC向け、通信機器向けの主流である。しかし、独自チップを搭載する機器のシェアが拡大すれば、標準チップビジネス自体が行き場を失う可能性もある。現在、業績が絶好調のAMDだが、近い将来に同社のライバルとなるのは、現在の顧客企業である可能性が高い。

 対Intel、対NVIDIA、対独自チップという3つの対立構図を想定し、AMDの今後の戦略と行方を考える際の論点・競争要因について議論しているテクノ大喜利。今回の回答者は、立命館アジア太平洋大学の中田行彦氏である。同氏は、今後、独自チップの開発・利用がさらに広がっていく可能性が高いことを指摘。それによって、AMDのような標準チップでビジネスをしている半導体メーカーは、攻撃的チャレンジャー戦略と呼べるような思い切った戦略変更が求められるようになるとしている。

(記事構成は伊藤 元昭=エンライト)
中田 行彦(なかた ゆきひこ)
立命館アジア太平洋大学 名誉教授
中田 行彦(なかた ゆきひこ) 神戸大学大学院卒業後、シャープに入社。以降、33年間勤務。液晶の研究開発に約12年、太陽電池の研究開発に約18年、その間、3年間、米国のシャープアメリカ研究所など米国勤務。2004年から立命館アジア太平洋?学の教授として、技術経営を教育・研究。2009年10月から2010年3月まで、米国スタンフォード大学客員教授。2015年7月から2018年6月まで、日本MOT学会企画委員長。2017年から立命館アジア太平洋大学 名誉教授・客員教授。2020年から名古屋商科大学非常勤講師。京都在住。
【質問1】CPUの領域で、AMDとIntelの競争の行方を考える際に、注目したい指標・論点・競争要因は?
【回答】 CPUの領域では、コア間の擦り合わせに注目したい

 CPUの性能向上には種々のアプローチがある。その中でも、高性能化の実現手法には、微細化プロセス、トランジスタ数の増加、CPU内部構造の改良、動作周波数の上昇などとともに、CPUコア数の増加といった多様な手法がある。ただし、これらのうち、動作周波数の向上によりCPUが発生する熱量が増加し、放熱し切れなくなってしまった。この限界を突破するため、動作周波数を上げない代わりに、CPUコア数を増やすことで高性能化が進められている。コア数とは、CPUの中にある演算を行う頭脳の数であり、コア数に対応する仕事を同時に行うことができる。

 AMDは、2017年3月に「AMD Ryzen」ブランドのCPUの販売を開始した。2021 年1月に発表された「AMD Ryzen7」はコア数8個である。これに対してIntel第11世代の「Core i7」は4個だった。AMD Ryzenはマルチタスクが得意であり、同時にいろいろな仕事をさせるのに強みがある。

 Intelも黙ってはいない。2021年10月に第12世代Core CPU「Alder Lake」を発売した。このCPUは、大小異なるCPUコアを1つのCPUに搭載する複合アーキテクチャーを採用した。今までのコアは、おのおのがタスクに対応した「モジュール」に分割されており、マルチタスクの状態によっては、十分に活用されないコアが生じる可能性がある。Intel第12世代CPUは、従来同様の機能を持つP(Performance)コアと、電力効率を重視したE(Efficient)コアの2種類のコアを搭載した。さらに「スレッド・ディレクター」という機能があり、OSが2種類のコアに効率よく作業を振り分けられるように支援する。つまり、コア間を完全に分断して「モジュール化」するのではなく、PコアとEコア間の調整をする、言いかえると「コア間の擦り合わせ」を行っているといえる。

 CPUの領域で、AMDとIntelの競争の行方を考える際には、こうしたコア間の擦り合わせによる高性能化の行方に注目したいと思う。