最先端の半導体の製造技術では、極端紫外線露光(EUVL)による素子や回路パターンの形成の導入が本格化。そして、技術開発のロードマップには、何と2Å(オングストローム、0.2nm)ノードの計画が記載されるようになった。チップの2次元面内での高集積化は、しばらく継続しそうだ。
ただし、微細パターンが描けるようになることと、付加価値の高い高集積なチップを、高い生産性で造れるようになることは別の話である。既に、チップレット技術を保有していないと、微細化技術の潜在能力を引き出せなくなってきているように、これからの半導体の技術開発では、微細化+αの複合的技術開発が重要になってきているようだ。
10年後を想定して、半導体ユーザーが明確な夢を描き、その実現に向けてまい進できる半導体業界のニューノーマル(新秩序)をテーマに議論しているテクノ大喜利。今回の回答者は服部コンサルティング インターナショナルの服部 毅氏である。同氏は、微細化と共にチップの3次元化技術の重要性がさらに高まっていくことを指摘している。
服部コンサルティング インターナショナル 代表

経済的・技術的・物理的など、さまざまな要因からムーアの法則の限界が近づく懸念が、これまで何度も繰り返し指摘されてきた。ところが、ムーアの法則はしぶとく生き続けてきた1) 。最近も「いよいよ終わりか」と思える時期があったが、究極のリソグラフィーと呼ばれるEUVLがついに実用化。さらには、高NA(開口率)化のめどもついたようで、ムーアの法則はさらに延命しそうである。さらには、Beyond EUVL (波長λ=6.x nm)も国際半導体ロードマップに将来テーマとして記載される見込みだという。
それでも、「原子はそれ以上微細化できない(Atoms cannot scale)」段階に到達したら、2次元での微細化は限界に達するだろう。それを待つことなく、平面での2次元微細化に代わり、チップをさらに小片に分割して接続したり、縦に積み上げて集積度を増し続けて3D-IC化したりして生き延びようとしている。今後は、3D異種集積(Heterogeneous Integration)の開発がさらに活発化するであろう。
2036年2Åプロセス、2040年にモノリシック3D実現か
ベルギーの先端半導体研究機関であるimecは、2022年5月の年次研究紹介イベント「Future Summits」で、2036年までのロジックデバイスのロードマップを発表した(図1)。次世代EUVL技術の商品化のめどがつき、GAA構造のさらに進化系であるFolksheet(食卓のフォーク型のナノシート)やCFET(pチャネルFETの上にnチャネルFETを重ねた3次元積層構造の相補型FET構造)、単原子層2Dチャネル材料などの予備的な検討で可能性が確認され、2036年に実用化見込みの2Åプロセスに向けた研究の道筋が見えたということだろう。このような平面的微細化に加えて、台湾TSMCや米Intel(インテル)が主導する3D-IC化で、当分、半導体高集積化は続行するだろう(図2)。
ムーアの法則が終わった後
前述したように、平面的微細化も、いずれ物理的限界を迎えるだろうし、3次元化も高層ビルと同様に強度的限界に達し、よほどの奇策でも登場しない限り、ムーアの法則は終わりを迎える。しかし、その際、半導体産業はムーアの法則の呪縛から解放されて自由な発想によって未来に向けてさらに発展し続けるであろう。1) 。
カーボンニュートラルの戦略物資としての高効率パワーデバイスの開発
コロナ禍で経済活動が停滞したおかげで、今まで経済活動優先で環境破壊を招いてきたことを誰もが認識するようになった。日本を含む世界の120以上の国や地域が一斉に50年までに温暖化ガス排出の実質ゼロ宣言をした。そして、これを経済活性化につなげていこうとしている各国政府が脱炭素の政策に舵(かじ)を切る中、再生可能エネルギーや省エネルギー技術に脚光が当たっている。
カーボンニュートラルな状態の世界の実現に向けて、半導体の需要増が見込まれている。とりわけ、車載半導体の高効率化・省電力化の切り札として、シリコン技術とは非連続に高性能な第3世代半導体(SiC、GaN、Ga2O3など)を用いたパワーデバイスが、カーボンニュートラルを目指す世界の「戦略物資」として注目されている。
データセンター業界でも、デジタル化社会で爆発的に増えるデータ処理量により、莫大な電力消費を必要とする巨大冷蔵倉庫のようなデータセンターの増設が強いられている。ここでは、電力効率の高いシステムや低消費電力の半導体デバイスが求められている。
1)服部毅、「半導体産業発展を支える『ムーアの法則』の過去・現在・未来」、Telescope Magazine、2021年6月2日
半導体は、国際分業で成り立っている典型的な産業だ。例えば、米国製EDAツールを用いて自社で(あるいは国内外のIC 設計下請け業に委託して)設計し、台湾や中国のファウンドリーに製造委託し、台湾、中国やマレー半島などにあるOSAT(半導体後工程とテストを受託する企業)で組み立て・最終テストを行い、グローバルに販売活動を展開してきた。
しかし、米中ハイテク覇権争いに端を発して、政治的な輸出規制やコロナ禍による都市封鎖、工場内火災、近隣国の戦争など、さまざまな事態に遭遇したことで、米国だけではなく、各国が自給自足のサプライチェーンを構築する方向で動いている。米国は、自国内で軍事用先端ロジックチップが製造できない事実に直面し、国家安全保障の立場から、米国でのサプライチェーン構築に必死の様相だ。日本は、米国とは事情が異なるため、米国に追従さえすれば、復興が可能になると考えるのは早計であろう。同盟国であっても、「America First」主義の米国の言いなりでは日本のサプライチェーンは弱体化するだけだ。
各国は、前工程だけ自国に誘致しても、頭隠して尻隠さずの状態である。後工程も誘致しなければ自国完結にはならない。シンガポールやマレーシアでは、TSMCや台湾UMC、台湾鴻海(ホンハイ)精密工業などの外資が後工程ばかりではなく、前工程のファウンドリーを計画(あるいは検討)している。このため、生産受託先が増えようとしており、顧客から見れば選択肢が増える傾向にある。むしろこの際、サプライチェーンを全世界に広げて複数、いや多数のサプライチェーンルートを構築し強靭化を図るべきだろう。
製造を自社内で行うにしても、地域の異なる2カ所以上で同じものを製造するようにし、外注する場合も必ずセカンドソースを設けるようにしなければ、地政学的リスクは回避できないだろう。すべての開発を1カ所だけで行うのも危険だ。
最近は、各社効率一点張りで、在庫ゼロのジャスト・イン・タイム、トヨタ生産方式を始め、無駄をそぎ落とした仕組みを我先にと採用している。その結果、中には付加価値の付かない検査まで顧客との契約に違反してやめるところまで出てきて、社会問題化している。仕事の効率第一の見地からではなく、地政学的な見地から開発・製造・販売を含むサプライチェーンの見直しが迫られている。