今回は、とかく感情に支配されがちな地方自治を変える仕掛けについて、私が横浜市議会議員だった当時に考えていたこと、議会で提案したことについて触れてみたい。一言で表せば、「対話の仕組みを設計する」。これに尽きる。今の日本の政治に基本的に欠けているのは、市民と行政の間の対話の仕組みである。
オープンデータだけでは不十分
地方自治を変える鍵の1つはオープンデータである。私が横浜市議会でオープンデータの活用を積極的に推進していたのも、データに基づいた科学的な政策判断こそ政治にイノベーションを起こす起爆剤と考えたからである。
本コラムでも、これまでオープンデータについていくつか記事を執筆してきた。最初の記事は、どのような経緯で横浜市にオープンデータの灯がともったのか、黎明期の議論を紹介した「オープンデータが変革迫る『議論をしない議会』」(2017年11月13日配信)。その後、2018年2月19日、26日と2週続けて、黎明期を振り返りつつ、今後のオープンデータ活用を展望するインタビュー記事を掲載した(「滞るオープンデータ活用、突破口は民間の働きかけ」「感情よりも科学が決める、データが変える地方議会」)。
特にこのインタビューの後編で、横浜市議の鈴木太郎氏が非常に示唆に富んだ指摘をしていたのが印象的だった。「政治は感情と科学の交差点で決まる」との発言だ。
この言葉が意味するのは、データに基づく科学的な政策の提案だけでは、地方自治を変えるには不十分なことである。地方議会では、合理的な理由がなく、例えば「首長が気に入らないから」といった感情的な判断で、政策が合意に至らなかったりする。今後オープンデータの取り組みが進んで、数値に基づいたロジカルな政策が示されたとしても、感情に比重を置いて意思決定がなされるという現状は変わらない恐れがある。国政と異なり、メディアを通じて情報が共有されるわけではない地方議会においては特にそうだ。今後、データに基づいた政策決定、いわゆるEBPM(Evidence Based Policy Making)†の取り組みが本格化したとしても、こと地方議会に限っていえば、メディアによる情報共有が未成熟なゆえに、導入が進まない可能性は大いにある。