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 藤江和子氏の名を広く知らしめたのは「くじらシリーズ」だろう。スタートは、槇文彦氏の設計で1982年に完成した慶応義塾大学三田図書館。合板を重ね合わせた3次曲面を持つオブジェのようなベンチは、人が身体を預ける平面形を連ねることで生まれた。その思考は、「生き生きとした人々の風景をつくる」という意識へと発展していく。(全3回のうちの第2回)

2回目の移転となった代官山ヒルサイドテラスE棟地下階の事務所にて。本棚で仕切りながら、山本理顕氏、元倉真琴氏らと部屋を共有していた
2回目の移転となった代官山ヒルサイドテラスE棟地下階の事務所にて。本棚で仕切りながら、山本理顕氏、元倉真琴氏らと部屋を共有していた
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 1977年に独立しました。独立するとすべてを自分で決めなければいけないけれど、決めるって大変なことです。納得するまで繰り返し模型をつくり、何枚も図面を描き続けるなりしていかないと答えが出せない。とにかく時間が来るまで考え続けているという時期が続きました。

 そうした状態のなかでようやく完成したのが、独立早々にインテリアデザインを依頼された渋谷のパブハウス「ワゴン・リ」(1980年)です。開業後のワゴン・リは多くの建築家やジャーナリストが訪れる店となり、私自身そうした人たちと知り合い議論する貴重な機会を得ました。また、直後のスペイン旅行でアントニオ・ガウディ作のグエル公園に感動したことは、その後のデザインの原体験となっています。

独立後間もなくインテリアデザインを担当した「ワゴン・リ」。建築家やジャーナリストのたまり場となった
独立後間もなくインテリアデザインを担当した「ワゴン・リ」。建築家やジャーナリストのたまり場となった
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 藤江和子氏はその後、槇文彦氏に声をかけられて慶応義塾大学三田図書館(82年)の家具デザインに取り組む機会を得た。このとき誕生したのが「くじらシリーズ」。少しずつ寸法の異なる単板積層合板を重ね合わせた曲面形状のベンチは、藤江和子氏の名を一気に世に知らしめた。

 三田図書館の設計では、閲覧机や本棚が完成した後、アプローチに何もないエリアが残っていました。当初は既製の家具を並べる計画だったのですが、せっかくだから何かもっと調和した家具を置きたいということでベンチのデザインに着手しました。