その後、小規模な企業の監査を全体的に任されるようにもなりましたが、やはり経営者の主張はなかなか見えませんでした。会計士という立場では限界がある、外から会社を見るのでなく事業会社の中に入りたいという思いが強くなりました。

 そして、2008年にカカクコムの経営企画部に入社しました。

IT企業に興味があったのですか。

 いえ、むしろITにはあまり魅力を感じていませんでした。会計士としてみると、IT企業ってアセットが少ないので、財務諸表という意味ではやれることがあまりない。何かを製造したり輸出入があったりする方が面白そうだなと思っていました。

 ただ、カカクコムはとても伸びている会社でしたし、規模もちょうど良かった。当時200人くらいで、このくらいの人数なら財務諸表の数字とそれを作っている人たちの関係が見えます。経理ではなく、経営企画で採用してくれたこともポイントでした。

 実際、仕事はとても面白かった。会社の意思決定の現場に出て、会社が何をやろうとしているのか、どんな判断で方針が決まるのかを目の当たりにしました。入社から2年ほど後には、経営企画室長も任されました。買収案件をはじめ、いろいろなプロジェクトを手掛けました。

 その後、管理部門に異動して、財務経理部と企画IR室を統括することになりました。ここで、マネジメントの苦労を味わいました。

どんな苦労でしょう。

 経営企画室では部下の人数は少なくて、マネジメントにはほとんど気を使わずに一緒にプロジェクトを回していました。それが管理部門に異動して、派遣社員も含めると30人程度の部下をマネジメントすることになりました。

 さらに、自分の下には年上で管理部のキャリアが長いマネジャーがいて、その下にスタッフがいて、さらに派遣社員もいる。全部で3段階です。2段階、3段階下の部下を持つというのは初めての経験で、この人たちとどんなコミュニケーションをしたらよいのかすごく悩みました。

 直属のマネジャーを飛び越して直接やり取りしてしまうようなことは良くないし、でも全く話をしないというのもダメだろう。しかも年齢的にはマネジャーよりもスタッフや派遣社員の方が近い。どうしたらよいか分からず模索を重ねました。

 実際、失敗もしました。直属のマネジャーを飛び越すようなことをしてしまって、マネジャーに不快な思いをさせたり、「そういう動き方はしないでほしい」と直接言われたり。人間関係がうまくいかない時期が1年ほど続いて、かなり悩みました。

その苦境を、どう脱出したのですか。

 最終的にたどり着いたのは、「直属の部下であるマネジャーを信じる」ということでした。

 今思えば、当初、私は部下のマネジャーを信頼し切れていなかった。その人たちが部長になってもおかしくないのに自分が呼ばれたということは、何か問題があるのではないか。自分がなんとかしなくてはならない、という先入観がありました。接し方にもそんな気持ちが出ていたと思います。

 でも一緒に一つひとつの仕事をこなしていったら、「この人すごいな」ということがいくつも見えてきました。日々の積み重ねの中で、マネジャーとして必要なスキルは存分に持っている、最初から信頼できる人たちだったんだ、ということが分かったのです。

 それに気づくのに1年もかかったんです。あのときに戻って、自分に教えてあげたいくらいです(笑)。

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 その後は、部下を信頼して任せられるようになりました。お互いの長所が分かってくると、何を任せて何を任せないか、あうんの呼吸ができてきます。部長とマネジャーという役職の違いよりも、その人が持っているスキルで役割分担すればよいというのが私の考えです。得意なところはその人に任せて、そうでないところを補完し合いました。