「最近の若いヤツは……」。年長者から若者に向けたこんな言葉は、いつの時代も、どこにでもあるでしょう。新入社員を迎え入れる4月は、特に増えているかもしれません。「若者が何を考えているのかがさっぱり分からない」「若いからしっかり指導しないといけない」と思っている方もいらっしゃるでしょう。
かくいう私も新人時代は、お世辞にも優等生とはいえませんでした。入社直後に親族の不幸があったことや、配属希望も通らなかったことなどから、精神的にかなり荒れていたのです。周囲からすれば、非常に厄介で難儀な存在だったと思います。すぐに辞めてしまうのではないかと、皆をハラハラさせていました。
そんな私の教育担当を務めてくれた先輩は、多忙な中でも私の話を真剣に聞いてくれる人でした。そんな先輩の下で過ごすうちに私の気持ちも落ち着き、仕事にも前向きに取り組めるようになっていきました。先輩が私のために多くの時間を割いていることを申し訳なく感じることもありましたが、先輩は「多田さんの話を聞くのも大事な仕事だ」と、常に寄り添ってくれました。
数年後、その先輩から、私の入社当時の話を聞く機会がありました。確かに入社当時の私は荒れていた。でもあるとき、先輩に向かって「今は分からないことだらけだが、一生懸命やるから教えてほしい」と訴えた。その言葉を聞いて、「この子は頑張ろうとしている、だから自分も真剣に向き合おう」と思った――。先輩はそう話してくれたのです。
私自身は、当時の自分の発言を覚えていませんでした。自分も忘れていたような最初の決意を、先輩がしっかりと受け止め、育て続けてくれていた。このことを知って先輩に改めて感謝すると同時に、「他人と真摯に向き合う姿勢」の重要さを学びました。
「傾聴」が人を育てる
人と向き合う姿勢の大切さは、その後キャリアコンサルタントの勉強をする過程でも、何度も実感しました。
現代のカウンセリングの礎を築いた人物といわれているカール・ロジャーズという米国の臨床心理学者のカウンセリング理論がその1つです。カウンセリング理論というと、カウンセラー資格を持つ人のための理論だと思われがちですが、それ以外の人にとっても参考になる内容を多く含んでいます。特に、教育などを通じて他人を支援する立場に立つ上では、非常に有用です。