もちろん、人間ですから安楽の欲求を捨て去ることはできませんし、その必要もありません。無理をして頑張り続けては身体や心が疲れてしまいますから、ときにはゆっくりと休むことも大切です。ただ安楽の欲求に身を任せすぎず、現状を受け止めながら今できる行動を起こして、自分自身が充実感を得られる状態を作る。それができるようになると、必ずその姿がほかの人にとっての刺激になり、結果として周囲が変化することに結び付くでしょう。

 最後に、相談者と同じような思いを抱いている方に、お薦めしたい本があります。ウィズグループ代表取締役の奥田浩美さんが書かれた『会社を辞めないという選択 会社員として戦略的に生きていく』です。

 私はとあるイベントで、著者の奥田さんと直接お会いしたことがあります。ちょうどその頃、私も辞めるべきかどうかを悩んでいました。短時間ではありますが奥田さんに悩みを話したところ、奥田さんから「あなたはまだ、やり切れたと思えていないのではないですか?」と言われました。それがきっかけで、今の自分の状況を書き出し、辞めるべきか否かを真剣に検討しました。

 実は当時、私はこの本の存在に気づいていませんでした。実際にこの本を読んだのはだいぶ後になってからだったのですが、多くの気づきがありました。会社を辞めようと思っているかどうかにかかわらず、会社員として働く人には是非読んでみていただきたい一冊です。

自分の道は自分で切り開くしかない

 ここで皆様にお知らせがあります。10回目を迎えた本連載は、今回が最終回となります。

 ここまでお読みいただいた皆様、SNSなどで記事をシェアしてくださった皆様、「記事読みましたよ」とお声がけいただいた皆様、そして今回の連載の機会を作ってくださった日経 xTECHの皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

 連載のお話をいただいたときには、「私で本当にいいのかな」という不安でいっぱいでした。まだまだいたらない点もたくさんありますが、成長途中の私に書ける精一杯のメッセージを詰め込ませていただいたつもりです。

 連載執筆に当たっては所属企業名を出さなかったため、知り合いなどから理由を聞かれることが多くありました。そこには、所属企業の看板に頼ることなく、キャリアコンサルタントとして、また一人の人間として、働くことの意味や生きる意味を模索することの大切さをお伝えしたいという思いがありました。

 連載を重ねていくうちに、このチャンスは私自身にとっても次のステージへと成長する上で必然となる、新しいチャレンジなのだと確信することもできました。この連載を通じて改めて自分の働き方そして生き方を振り返ることができたことは、本当に幸せだと感じています。

 最後になりましたが、私が皆様に一貫してお伝えしたかったのは、「自分の道は自分で切り開くしかない。まずは自分が今できることの一歩を踏み出すことが大切だ」ということです。地道な一歩一歩の積み重ねの中では、歩みを止めたくなる出来事もあるかもしれません。でも、頑張る姿を見てくれている人、手を差し伸べてくれる人は必ずどこかにいます。

 連載を読んでいただいた皆様と、どこかでお目にかかれる日を楽しみにしています。

多田 歩美(ただ あゆみ)
キャリアコンサルタント
多田 歩美(ただ あゆみ) 2006年、大手自動車メーカーに入社。研究領域の情報システム部門、本社のグローバルITインフラ戦略業務を経て、現在は再び研究領域(新価値領域およびコネクテッド、AI知能化等)のエンジニアを支援するツールの導入推進を通じてエンジニアが働きやすい環境作りを行っている。2014~2016年には業界団体でCAE(コンピュータ?援設計)領域でのクラウド活用タスクのリーダーを務める。社外活動としてはIT勉強会に積極的に参加・主催。2016年には米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の「Community Hero」に認定される。また、個人的な生涯学習としてキャリアカウンセリングの勉強を始め、2013年にCDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)資格を取得し、2016年国家資格キャリアコンサルタントに登録。