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Q.IT企業を中途退職して、個人事業主のSEとして独立しました。同僚たちは「何かあれば仕事を頼みます、助けてくださいね!」と言ってくれました。ところが、退職後1カ月半がたっても連絡はありません。不安になります。アルバイト程度の仕事があるだけです。独立する人は、どのくらいで軌道に乗るものでしょうか。また、経理事務、消費税の知識もほとんどないことに気づきました。

 安定的な仕事がない状況が続くと不安になります。それは筆者も経験しているので分かります。でも、まだ退職後1カ月半です。少しの仕事があるだけでも幸せです。焦りすぎて弱音を吐くのには、早すぎます。

すぐに仕事がなくても我慢する覚悟が必要

 筆者は起業コンサルタントではありません。ですので「どのくらいで軌道に乗るか」という最初の質問には、筆者自身の経験から述べます。

 確定的な仕事がある前提で独立する人と、そうでない人がいます。質問者は後者のようですね。少なくとも、独立後6カ月ぐらいは我慢する覚悟が必要です。

 筆者も後者ですが、質問者よりも準備をしていたと思います。26歳のとき社会保険労務士試験に合格して、その頃から将来は独立しようと思っていました。40代で独立すると決めて、30代から具体的なスキル習得を心がけていました。プライベートタイムを活用して人事給与関係の書籍を出版したり、関連する資格取得や研修の受講をしたり、開業している人たちとの交流を深めたりといったことなどです。

 質問者は、地道に実績を積んでください。アルバイト程度の仕事でもかまいません。少しずつの実績が、次の仕事につながります。実績を積むことで、思いがけない仕事の依頼も舞い込みます。

 筆者はIT企業勤務でしたが、社会保険労務士としての独立開業で、異業種での出発でした。質問者と違って、元同僚たちに何かを期待するという発想そのものがありませんでした。独立開業して4~5カ月たった頃からだと記憶しています。思いも寄らない人たちから連絡をもらうようになりました。すごく、驚きました。

 当時開催されていたSAPジャパンのパートナー会社が集まる懇親会で知り合った人から、「社会保険労務士と顧問契約したいという東証1部上場の製薬企業がある」と紹介の連絡がありました。顧問契約は、毎月一定の報酬(顧問料)をいただく契約です。

 この製薬会社は最初の顧問契約先であり、今も顧問社会保険労務士としてお付き合いしています。社長や人事部長との契約前の面談では、正直困りました。「顧問先は何社ぐらいあるのですか」と聞かれ、「ありません」と恥ずかしい思いで答えました。それでも、顧問契約をしてくれました。「今後、当社を顧問先だと営業トークで使ってくれてもいいですよ」という言葉もかけてもらいました。

 タイムレコーダーや勤怠管理のパッケージベンダーからは、労務セミナーの講演をお願いしたいと依頼がありました。「講演に出席した会社が、杉本さんと顧問契約を希望しています」といった紹介もありました。

 その後、人事給与システム受注でよく競合したIT企業からも人事セミナーの講演依頼をいただきました。講演は、上述した企業以外の依頼も含めて、年々回数が多くなっていきました。

 当時、どれも想像外の出来事でした。皆に自分は生かされている、そう思いました。その頃の恩は忘れません。そして徐々に顧問契約先が増えていきました。一足飛びには成果はなかなか出ないものです。質問者は、少し焦りすぎです。