Q.IT企業の部門長として、複数プロジェクトのシステム統括責任者をしています。昨年退職した部下のことで、当時の立場や役割を教えてほしいと某社より問い合わせがありました。「お答えできない」と言って電話を切りました。こんな問い合わせを受けるのは初めてです。答える人はいるのでしょうか、気になっています。
前職に関する第三者からの問い合わせだと推測します。キャリア採用時の問い合わせか、あるいは採用後に業績やスキルなど聞いていた話と乖離(かいり)があり疑わしいということで前職の上司(質問者)に問い合わせがあったのかもしれません。
採用面接では、誰しも自らを加点してアピールするものです。幹部や部長クラスの採用では、前職でのポジションや年収を引き合いに交渉することもあります。採用側としては本人の発言の真偽が気になるところです。
前職照会にむやみに答えない
昔と違って、個人情報は大切に扱わなければならないと今、誰もが認識しています。質問者は答えなくて正解でしょう。連絡してきた会社は、本人(元部下)の同意を得て問い合わせをしてきているのかもしれませんが、質問者には分かりません。
個人情報を特別に意識していなかった昔とは違います。個人情報保護法は2003年に部分的に施行され、2005年に全面施行されました。法令の施行に伴い、企業は個人情報の取り扱いについて慎重になりました。個人情報の漏洩問題が起こらないように社員教育で意識を高め、管理を徹底しています。個人情報を適切に扱う事業者に与えられる「プライバシーマーク」の取得もその1つです。その後、2016年にはマイナンバー制度の運用が始まりました。マイナンバーを含めて個人情報の重要性を人々はより意識しているはずです。
筆者の顧客で、人事部の年配社員から、昔は前職照会の電話があったと経験談を聞くことがあります。今ではほとんどないようです。あっても答えないようにと人事部内で周知されています。
退職した元部下について話したことで、本人(元部下)が不利益を被るかもしれません。本人がそういった事情を知ると、前職の会社との間で「個人情報の漏洩だ」というトラブルに発展する可能性もあります。
一方、質問のケースとは異なり在職している社員について、「別会社をつくって経営していないか」「他の会社の役員になっていないか」という点を調査する場合があります。疑わしい社員が発覚したときの話で、筆者が顧客を通じて見聞きしてきたことです。
前職のことが気になったIT企業
キャリア採用で、社内システムの開発責任者としてプロジェクトリーダーを求めていた会社があります。大手IT企業出身者の採用に至りましたが、実際に雇ってみるとプロジェクト管理ができなくて問題になったことがあります。
特に高い年収を約束して雇った場合で、期待していたスキルとの相違があったときは、採用した会社は不満に思います。きつい言い方ですが、採用する側に見る目がなかったということです。採用判断を大きく見誤るような候補者の嘘があれば問題ですが、本人のアピールで少々の武勇伝は織り込み済みで判断しなければなりません。採用責任は会社にあります。
別のIT企業では、面接時に候補者が「前の会社を円満退職した」と言っていたのに、実は解雇されていたということがありました。これは噂から事実が分かったものです。IT企業から別のIT企業への転職は多いので、転職しても、以前対応していた顧客と仕事することになったり、取引先が重複したりする場合が当然あります。そういった人間関係から人づてに知ることになったわけです。採用には、こういうことも起きるのです。