全2333文字

Q.IT企業に勤めています。部門長より各プロジェクトチームに、二重派遣や再委託先(孫請け会社)の社員がいないか確認指示がありました。状況把握が目的です。各社のメンバー一覧表があり、その会社の社員なら「○」、違う場合は「×」を、その会社の責任者に記入してもらうようにとのことです。疑うわけではありませんが、虚偽申告する会社もあるのではないかと思います。

 IT企業には、契約を直接交わしていない再委託先のシステムエンジニア(SE)がいるケースがあります。筆者は、システム開発は建設業の請負契約の構図と似ていると思います。再委託先の社員が現場(プロジェクトルーム)にいるのは不思議ではないかもしれません。

 兵庫県尼崎市の住民データが入ったUSBメモリーの紛失報道が2022年6月にありました。紛失したのは、再々委託先の社員だったとのことです。

 個人データを扱うような仕事は通常、再委託することを禁止されています。筆者の事務所(社会保険労務士)は顧問先企業の社会保険手続きを代行しているので、社員の個人情報を取り扱います。自ら「再委託はしない」という方針を契約書やホームページに明示しているので、当然、事務所職員のみで対応しています。

 特に個人情報の取り扱い及び運用を行うIT企業は、請負会社への発注に注意が必要です。あらかじめ顧客先の承諾を得てからにしてください。顧客先から見て契約が「再委託禁止」「再々委託禁止」となっている可能性があります。IT企業の担当者はいま一度、自社が契約違反になっていないか、実態をチェックすることをお勧めします。

再委託や二重派遣SE、周りにいるかもしれない

 現実には、IT企業内に再委託や二重派遣のSEがいます。二重派遣は、職業安定法(44条)で禁止されているので「いない」と信じたいところです。派遣先となるIT企業側が、二重派遣のSEだと知らずに勤務させている可能性はあります。すでに、質問者のプロジェクトチーム内にいるかもしれません。

 二重派遣とはどういう仕組みでしょうか。システム開発を発注するIT企業を「A社」、派遣や請負先の会社を「B社」さらにその先の会社を「C社」とします。

 C社からB社、B社からA社に同じ社員を派遣できません。二重派遣になるからです。また、多重派遣になると中間マージンが搾取されます。これは、労働基準法(6条)の中間搾取の排除に抵触します。

 SEを派遣する会社は、自社が雇用している社員を派遣しなければなりません。例えばフリーランスSEを、そのまま派遣させることはできません。その場合は、フリーランスSEと雇用契約(請負ではない)を結んで自社の社員として派遣する必要があります。つまり、フリーランスSEを有期雇用の社員にするということです。

 請負の場合は、B社がC社に仕事を依頼することは可能です。発注するIT企業から見ると、プロジェクトに関わるメンバーに再委託先(C社)のSEもいるわけです。通常、普段の付き合いの中で「B社の社員」か「C社の社員」かを、ある程度は分かっていると思います。

 一方で、C社の社員ではなくB社の社員だという認識を持ってIT企業が付き合っている場合があります。本人から「実はC社の社員です」と聞かされて驚くこともあるようです。

 IT企業側が再委託を前提として仕事をお願いするケースがあります。大手IT企業になると、新規取引の会社には審査があります。信頼できる会社かどうかのチェックです。優良企業としての実績と年数がなければ、取引できないのが普通です。

 プロジェクトに必要なSEがいても、取引可の会社でなければ発注できません。そこで部門長やプロジェクトリーダーは、取引可の会社を経由して発注するわけです。つまり、発注元のIT企業A社→取引可のB社→C社やフリーランスSEという商流になるのです。

 IT企業にとって、重大事故が起こったときに「違法行為なのに二重派遣してくる会社が悪い」「契約書に再委託はダメと記載してあった」などの言い訳は通用しません。顧客から見れば、あくまでも契約当事者はIT企業のA社だからです。