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Q.ITエンジニアです。当社には家族手当の支給があります。支給の内訳は配偶者2万円、子どもや両親など扶養家族1人につき4000円です。実は2年前、離婚しました。そのときに家族変更の申請を行いましたが、会社のミスで、その後も配偶者分の2万円が減額されずに支給されていたそうです。過払い分の48万円を返還するように言われました。給与明細書はイントラネットで閲覧できますが、定期的にチェックしていなかったので気づきませんでした。計算を間違っていたのは会社なので、急に返せと言われても困ります。分割払いにしてほしいです。

 給与が多く支払われた過払いのケースです。一方、少なく支給される不足のケースもあります。

 給与を間違って支払っていた、これは普通にあり得ることです。過去一度も給与計算を間違ったことはないと言い切れる会社はないと思います。会社側のミスだけでなく、社員自身が残業時間などの勤怠データを誤入力していたことで起こる間違いもあります。

 筆者は会社員時代に、人事給与パッケージの開発やサポートをしていた関係で、同僚たちから「給与明細書を見てほしい」との依頼をよく受けました。給与計算の間違いを数回指摘した記憶があります。社員側の勘違いが多いのですが中には会社側のミスもあり、ある時などは多くの社員に影響する間違いがありました。後日その内容は修正され、全社に通知されました。

 給与計算システムには、各社員の基本給や役職手当、資格手当、家族手当などの支給金額が登録されています。質問のケースでは、会社の人事担当者が家族手当の変更を失念していたのでしょう。

 社員の申請データから給与システム側へとデータが連係する仕組みを構築している会社があります。質問者の会社のシステムはそうなっていないようです。連係していれば、入力漏れは防げたと思います。

 所得税は正しく計算されていたようなので、配偶者の税扶養区分は正しく変更されていたことになります。税扶養区分との関連をチェックする手法でも、質問のミスは防げました。

会社には「返還請求権」がある

 質問のケースと類似する相談が過去にもありました。子どもが成人して就職しているのに家族手当を払い続けていた事案です。会社が他の社員分も調査したところ、5人の社員に過払いを続けていました。過払いの期間と金額は異なるので、一人ずつ話し合いで返還方法を決めて対応したそうです。

 残業手当が間違っていた、年末調整の生命保険控除額が違う、引っ越したのに通勤手当が更新されていないなど、人的ミスによる間違いはあります。

 間違いの原因がシステムのバグだった場合、多くの社員に影響します。入力ミスのレベルではないからです。特に、給与計算システムを大幅に機能変更したり別のシステムに置き換えたりしたときなどは、本番稼働後の不具合が多く見られます。他にも社会保険法や所得税法の大幅な改正があったときも要注意です。

 さて、質問者に返還義務はあるのでしょうか。答えは「ある」です。会社のミスなのですが、質問者が正当な権利としてもらえるお金ではありません。このようなお金を民法では「不当利得」といいます。不当利得について、会社は返還してほしいという権利(返還請求権)があります。

 質問者にとっては、過払いのお金を返すことになります。給与明細書を見ていないとのことなので、銀行振込額が生活に使えるお金だとして、既に使っているのかもしれません。会社がミスさえしなければ面倒なことにならなかった、返還で悩むこともなかったと恨み節が出てくるのは理解できます。

 会社側のミスは明確です。会社は質問者に謝罪して、丁寧にミスが起こった原因説明をして、返還及び返還方法について理解を求めなければなりません。返還額が大きいと社員が困ることもあります。分割払いや賞与払いなど、質問者の意向を考慮してください。