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 新しいテクノロジーを活用した金融・決済系のサービスは、既存サービスが不便な新興国や途上国のほうが受け入れられやすい傾向にある。過去を振り返ってみても、携帯電話のSMS(Short Message Service)を活用した送金サービスは、先進国ではなくアフリカや東南アジアの出稼ぎ労働者の需要などを捉え、人気を獲得した経緯がある。

 逆に既存の金融インフラが充実している先進国では、そうした新しいサービスの浸透が進みにくい傾向にある。NFCを用いたモバイルの決済基盤も、最近でこそ欧米でようやく広がってきたという印象があるものの、まだまだ少数派にとどまっているようだ。既存の決済手段への信頼が高く、便利で困ることがない以上、他の決済手段をあえて利用しようという人は多くないのが現状だ。

利便性のために放置自転車を認められるか

 シェアサイクルに関しても、そのサービス形態自体は以前からあるものだけに、中国で急拡大したのにはそれなりの理由がある。中国でのシェアサイクルの使い方を観察すると、人気の理由は“乗り捨て”ではないかと筆者は推測する。

 中国のシェアサイクルは、先にも話した通りGPSなどを搭載しているため、ユーザーや事業者側が自転車の場所を簡単に把握できる。それゆえ駐車する場所を選ぶ必要がなく、目的地に到着したらそのまま自転車を乗り捨てられることが、人気獲得につながったと言えよう。2017年には政府が乗り捨てを規制する動きに出たようだ。しかし筆者が先日深圳(シンセン)を訪れた際、現在もなお、多くのシェアサイクルが乗り捨てられている状況だった。

中国ではシェアサイクルの乗り捨てが定着していることから、乗り捨てが規制された現在も、至るところでシェアサイクルが放置されている様子を見ることができる(筆者撮影)
中国ではシェアサイクルの乗り捨てが定着していることから、乗り捨てが規制された現在も、至るところでシェアサイクルが放置されている様子を見ることができる(筆者撮影)
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 シェアサイクルのサービスを実現できたのは技術の発展のおかげであるのは確かだ。しかしながら、サービスの普及を推し進めたのは自転車の放置による利便性である。放置自転車対策に長年力を入れて取り組んできた日本でそのまま展開できるかというと、それは不可能だろう。

 先に挙げたMobikeも、日本での事業展開に関しては駐輪場の設置を前提にしているという。乗り降りができる場所には一定の制約が生じることとなる。非常に多くの駐輪場を用意できない限り、中国と同じ利便性は実現できないだけに、中国のように爆発的な成功を収めるのは容易なことではない。

 そうした観点が抜けたまま、技術の新しさや海外での普及度合いだけでサービスの善しあしを判断するのは避けるべきだろう。各国が抱える様々な事情を無視して、単に日本が遅れていると評価するのはやや早計ではないかと、筆者は感じている。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。