提携の狙いは通信ではなくサービスプラットフォーム
ここで気になるのが、トヨタ自動車と国内通信事業者の提携関係である。そもそもトヨタ自動車はKDDIの大株主であり、コネクテッドカーの基礎となる車載通信機によるグローバル通信プラットフォームは、KDDIと共同開発を推し進めている。また2017年にはNTTとも、コネクティッドカー向けICT基盤の研究開発で提携している。
一方でソフトバンクとは、ソフトバンクの親会社であるソフトバンクグループの代表取締役社長である孫正義氏が、かつてトヨタ自動車にネットディーラーのシステムを提案したものの、現在のトヨタ自動車の代表取締役社長である豊田章男氏がそれを断るなど、必ずしも関係が良かったわけではない。
それだけに、なぜトヨタ自動車は既に提携している通信2社のいずれかではなく、改めてソフトバンクと提携したのかと、疑問が湧くところでもある。発表における両社の説明を聞くに、その理由は今回の提携が通信というよりも、サービスプラットフォームに関するものであるが故のようだ。
実際、トヨタ自動車が今回のソフトバンクとの提携にたどり着いたのには、スマートフォンを用いたライドシェアサービスの存在が大きく影響しているという。トヨタ自動車はMaaSの取り組みを拡大するため、2018年6月に東南アジアのライドシェア大手であるシンガポールのグラブホールディングス(Grab Holdings)、同年8月には米国のライドシェア大手である米ウーバーテクノロジーズ(Uber Technologies)に出資している。これらはいずれもソフトバンクグループが先に出資し、大株主となっている企業だ。
さらにソフトバンクグループは、中国の滴滴出行(Didi Chuxing)やインドのオラ(Ola)など、各国のライドシェア大手企業に相次いで出資しており、この分野で大きな影響力を持つ。一方でトヨタ自動車は、自動車というハードに関しては世界トップクラスの企業であるが、サービスに関する知見は必ずしも持ち合わせているわけではない。そこでe-Paletteによるサービスプラットフォームを展開するうえでの知見を手に入れるために、ソフトバンクグループ系列のソフトバンクと組む必要があったと言えそうだ。
この提携がソフトバンクではなく、トヨタ自動車側から持ち掛けられたものだという点も、そうした狙いを示していると言えよう。自動車をサービス化するという取り組みは、自動車メーカーだけでなくIT大手なども積極的に推し進めているものだけに、今後もネットサービスに強みを持つ事業者と、自動車メーカーが組むという動きは一層加速することになりそうだ。
フリーライター