長期契約の獲得と事業の伸びの大きさが狙い
大きな理由は2つあると考えられる。1つは、携帯電話契約者の長期契約に結び付けたい狙いだ。
携帯電話大手はこれまでにも自社の携帯電話契約者に対し、携帯電話の長期契約を促すため、様々なサービスを利用してもらう施策を数多く実施してきた。その代表的なものが、固定ブロードバンド回線との同時契約による「セット割」である。だが、顧客の契約を直接的に縛ることは、ユーザーが携帯電話事業者を乗り換えるスイッチングコストを高めるとして、総務省や公正取引委員会などから厳しい意見が上がっている。
そうしたことから携帯電話大手は、間接的にユーザーの長期契約につながるサービスの拡大にも力を入れるようになった。中でも金融系サービスは、住宅ローンや投資信託、保険など、長期的な契約に結び付きやすいものが多いことから、その重要性が高まっているといえる。
もう1つの理由は収益手段の多様化である。携帯電話大手3社は国内の少子高齢化傾向もあってこれ以上回線契約を拡大することが困難である。一方、2018年8月に菅義偉官房長官が携帯電話料金の大幅値下げに言及するなど、行政からは強い通信料金の値下げ圧力を受けており、本業の携帯電話事業で売り上げを伸ばすことは困難となりつつあることから、他の事業を拡大する必要が出てきているのだ。
実際、NTTドコモは「スマートライフ領域」、KDDIは「ライフデザイン」と称して、携帯電話の基盤と技術を生かしながら生活に根差したサービスを提供することに力を入れている。そして最近の各社の決算内容を見るに、そうした生活系サービスの中でも特に決済を中心とした金融系サービスは伸びが大きいことから、この分野に一層注力するようになったといえるだろう。
携帯電話大手が決済以外の金融系サービスに力を入れ始めたのは比較的最近のことであるため、強い顧客基盤と企業体力、高いブランド力などを武器として、今後も様々な金融サービスを提供してくると考えられる。携帯電話事業者が金融分野で強い存在感を見せるのも、そう遠いことではないのかもしれない。
フリーライター