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システム重視でエリア展開は「面」より「点」

 そこで「日本では1%(のタクシー配車)を伸ばすだけでなく、99%の改善をどう成し遂げていくかが極めて重要」と中島氏は話す。その一環として、AIとビッグデータを活用することで需要を予測し、運転手に情報を提供するAI運行支援技術の開発も進めているという。

 こうしたタクシーの需要予測システムは、既にNTTドコモが「AIタクシー」として提供しているほか、ソフトバンクが中国の滴滴出行(Didi Chuxing)と合弁で設立した「DiDiモビリティジャパン」も同様の仕組みをドライバーに提供している。だがこれらは基本的に、需要の多い場所を色の変化でリアルタイムに示すヒートマップをドライバーに提供するのみだ。

 これに対してディー・エヌ・エーが提供するスマートフォンのナビゲーションシステム「AI探客ナビ(仮)」では、単にヒートマップを提供するのではなく、乗客を獲得しやすい具体的な走行ルートを案内する。ヒートマップの変化を追う必要がなく、経験の浅いドライバーであってもナビゲーションに従って運転するだけで顧客の多いルートを走行できるわけだ。

 なお、神奈川県内でタクシー会社4社の30人以上のドライバーに利用してもらった実証結果では、参加者の中でナビに準拠して走行して運転した人は、新人とベテランを含めたドライバーの平均程度の売り上げを上げられる割合が高いという結果が得られたという。

 中島氏によると、新人ドライバーとベテランドライバーでは、同じ時間内に同じエリアを走行していても、売り上げに2倍以上の差が生じるとのこと。そのため、AIを活用したナビゲーションの導入によって、新人ドライバーが一般的なドライバーの平均的な売り上げを上げられるようになることが、タクシー会社全体の売り上げの底上げにつながるとしている。

ディー・エヌ・エーが開発中のタクシー運転手向け「AI探客ナビ(仮)」。AIとビッグデータでタクシーの需要を予測し、効率よく顧客を獲得できるルートをナビゲーションしてくれる仕組みだ。写真は2018年12月4日のディー・エヌ・エー発表会より(筆者撮影)
ディー・エヌ・エーが開発中のタクシー運転手向け「AI探客ナビ(仮)」。AIとビッグデータでタクシーの需要を予測し、効率よく顧客を獲得できるルートをナビゲーションしてくれる仕組みだ。写真は2018年12月4日のディー・エヌ・エー発表会より(筆者撮影)
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 ディー・エヌ・エーはタクシー配車アプリの分野では後発となる。それだけに提供エリアをいち早く拡大することが重要なように思える。だが同社ではタクシー会社に高い利便性と収益機会を提供するべく、精度の高いシステムの実現を重視して、都市部を主体とした狭いエリアで確実に普及させる戦略を取っていくようだ。

 一方で地方部に関しては、「特に過疎部では成立させるビジネスモデルがだいぶ違うと考えている。何かしらの実証を経て、地方向けのスキームを確立したうえで展開する」と中島氏は回答。中島氏自身も、過疎地が少子高齢化によって大きな交通課題を抱えているとして重要性は認識しているようだが、やはり民間企業ゆえか、大きな売り上げが見込める都市部を優先せざるを得ないということなのだろう。

 タクシー配車アプリはMOV以外にも参入企業が増え、2019年以降に競争が激化するものと考えられる。だがその競争が、交通インフラの充実している大都市圏にとどまるようでは、真の交通課題の解決にはつながらないだろう。スマートフォンやAIなどによる利便性を、より大きな交通課題を抱える地方にまで広げる取り組みに期待したいところだ。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。