日本では2020年の5G(第5世代移動通信システム)商用化を目指していることもあり、5Gと仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を活用した新しいスポーツ観戦体験に関して多くの取り組みが進められている。だが実際にスポーツファンが満足できるものを提供するには、課題も少なからずあるようだ。ソフトバンクが福岡市の「ヤフオク!ドーム」で実施した5GとVRの実証実験から、その理由を探ってみよう。
5Gの高速通信を生かしプロ野球をVRで観戦
2019年4月の電波割り当て、そして2019年秋のプレ商用サービス開始を控え、携帯電話各社の5Gに関する取り組みも急加速している。実証実験を通じて積極的にアピールする機会が増えているようだ。
中でも一般消費者に向けた取り組みとして挙げられる機会が多いのが、VRやARなど「XR」と呼ばれる技術を活用したコンテンツやサービスの実証実験である。特に日本では、プレ商用サービス提供時点でラグビーワールドカップ、そして商用サービス開始時点の2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されるなど大きなスポーツイベントが相次ぐことから、携帯電話事業者はスポーツと5G、そしてXRを活用する実証実験に力を入れる傾向にある。
最近では2019年3月20日に、ソフトバンクと福岡ソフトバンクホークスが、多視点切り替え可能な3Dパノラマ映像を用いたVR空間における試合観戦の実証実験を実施。同年3月22日には福岡ソフトバンクホークスの本拠地である福岡ヤフオク!ドームで、実証実験の様子を報道陣に公開している。
実証実験は、4台のVRカメラを用いて撮影した試合の様子を、会場内に構築した3.7GHz帯と28GHz帯の5Gネットワークを通じてVRヘッドマウントディスプレー(VR HMD)に伝送、複数の視点を切り替えながら試合観戦を楽しむというもの。現時点では5G対応のVR HMDが存在しないことから、5Gの端末からWi-Fiルーターを通じ、Wi-FiでそれぞれのVR HMDに映像を伝送する仕組みとなる。
実証実験の特徴は、VR空間内でコミュニケーション機能が使えること。VR空間は福岡ヤフオク!ドームのVIP観戦ルーム「スーパーボックス」を再現しており、その空間内にVR HMDを装着した人たちがアバターとなって現れ、VR HMDのマイクやリモコンなどを使ってコミュニケーションができる他、同じくアバターに扮装(ふんそう)したガイドによる案内で、操作方法や試合の楽しみ方などを聞きながら観戦できる。