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子会社化で通信サービスと非通信サービスを一体提供

 ソフトバンクが今あえて、ヤフーを子会社化する理由はどこにあるのだろうか。代表取締役社長執行役員兼CEOである宮内謙氏は、ヤフーの子会社化によって「非通信分野の強化を図りたい」と話している。

 その背景にあるのは、主力の携帯電話事業における市場動向の変化であろう。ソフトバンクはこれまで携帯電話事業の拡大で売り上げを伸ばしてきたが、最近は少子高齢化による加入者の伸び悩みに加え、2018年には菅義偉官房長官が携帯電話料金の値下げに言及するなど、行政からの値下げ圧力も強まっている。ソフトバンクを含む携帯電話大手は、本業である通信事業で売り上げを大きく伸ばすことがもはや難しくなってきているのだ。

 しかも2019年10月には楽天傘下の楽天モバイルが携帯電話事業を開始する予定だ。サービスに強みを持つ楽天が通信インフラを持つことで、携帯電話事業者間の競争も、今後ネットワークとサービスの一体提供による価値をいかに作り出していくかという方向に向かっていく可能性が高い。

 そうしたことから携帯大手は、非通信分野のビジネス拡大を積極的に進めている。NTTドコモが共通ポイントの「dポイント」利用者を新たな顧客基盤と位置付けたり、KDDIがauユーザーに限定していた「au ID」のオープン化を打ち出したりしているのも、そうした市場変化を受けた戦略転換といえるものだ。

 一方ソフトバンクはこれまで、スマートフォン向けの非通信サービスは自ら提供するのではなくヤフーとの連携で賄い、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資先企業との合弁事業に今後の成長を託す戦略を取っていた。だが市場環境が急変する中にあって、合弁事業が大きく成長するのを待っていては通信事業の落ち込みを支えきれない可能性が出てきた。そこでソフトバンクは、ヤフーを傘下に収めてコンテンツやサービスを再び保有する方針に切り替え、他社に対抗できる体制を整えるに至ったといえそうだ。

グループ間の資金の融通にすぎないのか?

 それ故ヤフーを子会社化するソフトバンクの戦略は、道理にかなったものと見ることができる。だがそれでもなお、疑念が残る。それはソフトバンクグループの企業内で資金を融通し合っているようにも見えてしまうことだ。

 先に説明した通り、今回の子会社化はソフトバンクがヤフーの株を買い、ヤフーがソフトバンクグループから株を買い取るというというスキームで実施される。だがこのスキームは、見方によってはヤフーを通じて、ソフトバンクからソフトバンクグループに資金を移動するという見方もできてしまうのである。

 そうした疑念が生じるのはやはり、ヤフーがイー・アクセスの買収を2カ月で中止したように、ソフトバンクグループとヤフーを巡っては、過去にも周囲から見ると疑問を抱かざるを得ない施策がいくつか取られてきたからであろう。

 ソフトバンクやソフトバンクグループは、今回の子会社化にそうした意図はないと説明している。ソフトバンクグループの代表取締役会長兼社長である孫正義氏は2019年5月9日の同社決算説明会において、宮内氏からヤフー子会社化の話を持ち掛けられた際、当初はそうした疑念が生じることから、否定的な立場だったと話している。

ソフトバンクグループの孫氏は、今回のヤフー子会社化に関して、当初はグループ内での資金融通に関する懸念が生じるとして否定的だったと話す。写真は2019年5月9日のソフトバンクグループ決算説明会より(筆者撮影)
ソフトバンクグループの孫氏は、今回のヤフー子会社化に関して、当初はグループ内での資金融通に関する懸念が生じるとして否定的だったと話す。写真は2019年5月9日のソフトバンクグループ決算説明会より(筆者撮影)
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 だがそれでもなお、過去の経緯があるだけに、今回の施策がソフトバンクとヤフーの本意だったのか、疑問を持つ声は少なからずあるというのが正直なところである。疑念を払拭するためにも、ソフトバンクとヤフーには早い段階で明確なシナジーを出すことが求められることになりそうだ。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。