全3097文字
PR

地方対応がなおざりでは他の決済手段に主役を奪われる

 ただ、気になるのはモバイルPASMOにしても、モバイルSuicaにしても、その利用はあくまで関東圏が利用の主体であること。西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)は2020年10月16日、「モバイルICOCA」(仮称)のサービスを2023年春に提供予定であることを打ち出したが、、他地域での交通系ICカードのモバイル化が進む様子は見られず、モバイルPASMOの実現にこれだけ時間がかかったことを考えると今後の実現の可能性にも疑問符が付く。

 また同じJR東日本の管轄地域でも、実は関東圏以外ではSuicaのインフラ整備はあまり進んでいない。特に東北地方では、Suicaのインフラが整備されているのは仙台圏や新幹線の通過駅周辺などに限られ、そこから離れると駅でSuicaが利用できない、あるいはSuicaのチャージができないといったケースが少なからず見られる。

 そうしたことから、交通系ICカードの基盤を活用したスマートフォン決済が主流になり得るのは関東圏に限られ、現状のままではそれ以上の地域に広がる可能性は低い。一方で他のスマートフォン決済の動向を見ると、PayPayなどの新興勢力は地方でも強力な営業体制を敷き、加盟店開拓を積極的に進める企業が多いことから、全国に広がりを見せている。

 また最近では、海外での利用が広がっているNFCをベースとしたタッチ決済の導入を積極化する動きも強くなってきている。特にその動きを強めているのが米Visa(ビザ)で、米Goolge(グーグル)の「Google Pay」を通じてスマートフォンでのVisaタッチ決済が使えるようにしただけでなく、クレジットカードのVisaタッチ決済対応や、Visaタッチ決済のプロモーションも積極的に推進。大手コンビニエンスストアやファストフード店など、導入店舗も着実に増えている。

 もちろん現時点では、それらの勢力がモバイルSuicaなどの優位性を失わせるには至っていない。だが最近では地方の交通系事業者が、あえて交通系ICカードへの対応をしない事例も出てきているようだ。

 実際、複数の地方交通会社を傘下に持つみちのりホールディングスは、2020年に傘下の茨城交通や岩手県北バス(岩手県北自動車)の高速バスでキャッシュレス決済を導入しているのだが、その際QRコード決済とVisaタッチ決済のみを採用しているのだ。

みちのりホールディングスと茨城交通らは2020年7月21日に高速バスへのキャッシュレス決済を導入したが、対応するのはQRコード決済とVisaのタッチ決済のみで、Suicaなどの交通系ICカードには対応していない
みちのりホールディングスと茨城交通らは2020年7月21日に高速バスへのキャッシュレス決済を導入したが、対応するのはQRコード決済とVisaのタッチ決済のみで、Suicaなどの交通系ICカードには対応していない
(出所:みちのりホールディングス)
[画像のクリックで拡大表示]

 交通系ICカードのスマートフォン対応が進んでいない地方を中心に他のスマートフォン決済手段の普及が進めば、スマートフォンメーカーが実質的に日本のみに向けた対応となるFeliCa搭載を敬遠する動きが広がり、それに伴って交通系ICカードをベースとした決済の利用も減少してしまうかもしれない。費用対効果という非常に大きな課題があるとはいえ、このまま関東圏への偏重が続くようであれば、スマートフォン決済においては交通系ICカードの地盤沈下も大いにあり得ると筆者はみている。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。