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 NTTドコモは2020年10月23日、東京女子医科大学と商用の5G環境を活用した移動型の遠隔手術システム「モバイルSCOT」の実証実験を報道陣に披露した。5Gのユースケースとしても注目を集める遠隔手術だが、モバイルSCOTが実現するのは我々がこれまで想像してきた遠隔手術とは異なり、より現実的な形となるようだ。実証実験の内容からその有効性と将来性について確認してみよう。

手術をするのはあくまで医師、5Gを活用し遠隔で指示

 新型コロナウイルスの影響に加え、エリアの狭さや対応端末が高額なことなどもあって、サービス開始から盛り上がりに欠ける状況が続いていた5G。だが米Apple(アップル)が5Gに対応した「iPhone 12」シリーズを発売したことで、再び5Gに対する関心が高まりつつあるようだ。

 一方で5Gはもともとコンシューマー向けより、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の促進などビジネス用途での活用に大きな期待が持たれている。それゆえ携帯電話各社は5Gの商用サービス開始以前から、様々な企業や団体などと5Gを活用したビジネスの開拓に向けた実証実験を進めてきた。

 そうした取り組みの1つとなるのが、NTTドコモが東京女子医科大学と進めている「モバイルSCOT」だ。これは東京女子医科大学が開発したスマート治療室「SCOT(Smart Cyber Operating Theater)」をベースに開発されたもの。SCOTを用いることで、複数の医療機器や設備の情報を連携させ、離れた場所にいる専門医が手術の状況を把握しながら執刀医に適切な指示を与え、より的確な治療ができるようになるという。モバイルSCOTは、SCOTのシステムを車に搭載して5Gを用いることにより、遠隔地などでも手術ができるシステムとなる。

NTTドコモが東京女子医科大学と開発を進めている「モバイルSCOT」。離れた場所の専門医に情報を送って適切な手術ができる「SCOT」の仕組みを、車に載せてモバイル化したものだ。写真は2020年10月23日のNTTドコモ・商用5Gを活用した遠隔手術支援実証実験より(筆者撮影)
NTTドコモが東京女子医科大学と開発を進めている「モバイルSCOT」。離れた場所の専門医に情報を送って適切な手術ができる「SCOT」の仕組みを、車に載せてモバイル化したものだ。写真は2020年10月23日のNTTドコモ・商用5Gを活用した遠隔手術支援実証実験より(筆者撮影)
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 5Gで遠隔手術と聞くと「ダヴィンチ」のように、ロボットを遠隔地にいる医師が操作して手術をすることをイメージする人が多いだろう。だが実際のところ、高速大容量通信や低遅延など高い性能を持つ5Gでも、無線通信の特性上100%安定して通信できる環境を保証できるわけではなく、実現には非常に多くのハードルがある。

 そうしたことからモバイルSCOTは、手術を執刀するのはあくまで人間の医師であり、より詳しい知識を持つ遠隔地の専門医と情報を共有しながら、適切な指示を得て適切な手術ができるようにする仕組みだ。現場に医師は必要だが、必ずしも全ての知識を持ち合わせている必要がないという点を考慮すれば、現実的な遠隔手術の仕組みといえるだろう。