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 2020年12月1日、スマートフォン決済アプリ「Kyash」を運営するKyash社が年利1%のKyashバリューを毎月付与する「残高利息」を開始することを発表。同社は12月7日、各方面に混乱を与える懸念があるとしてサービスの名称や内容を見直すと発表したが、こうした決済から金融へと舵(かじ)を切る動きは、2020年に多くのスマートフォン決済事業者に見られた。スマートフォンでの金融サービスが成功する上で求められるものは何だろうか。

年利1%の「残高利息」を打ち出したKyash

 2019年に各社の大規模なキャンペーン合戦で大きな盛り上がりを見せたスマートフォン決済。だが2019年後半から2020年にかけ、体力的に疲弊した事業者が他の事業者に統合されたり、提携して同一のグループを形成したりするなどして急速に競争が収束。新型コロナウイルスの影響で店舗での決済利用自体が減少したことなどもあって、その注目度合いは急速に薄れてきている。

 だが2020年のキャッシュレス決済の動向を見ると、競争軸そのものが変化して新たな段階へと移りつつあるようだ。それを象徴しているのが、Kyash社が発表したアップデートである。

 同社はKyashアプリのアップデートを実施し、いくつかの機能追加や変更を加えるとしている。中でも大きな変化となるのが「残高利息」というサービスである。これは銀行口座などから入金した残高に対して、年利1%の残高利息を毎月付与するというものだ。

Kyash社が2020年12月1日に発表したKyashのアップデートで、新たに年利1%の「残高利息」を提供するとのこと。なお12月7日にはサービスの名称や内容について見直すと発表しており、サービス内容は今後変わる可能性がある(出所:Kyash)
Kyash社が2020年12月1日に発表したKyashのアップデートで、新たに年利1%の「残高利息」を提供するとのこと。なお12月7日にはサービスの名称や内容について見直すと発表しており、サービス内容は今後変わる可能性がある(出所:Kyash)
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 超低金利の現在にあって1%の年利というのは非常に魅力的だが、同社は資金移動業の免許は持つものの、銀行業の免許は持っていない。それゆえ実際に付与される残高利息は、Kyashアプリでの決済にのみ利用でき、引き出しや送金ができない「Kyashバリュー」となるなどの制約があるし、1カ月に1回以上、Kyashアプリで決済をしなければ残高利息が付与されないなど、銀行とは異なる点が多いことには注意が必要だろう。

 一方で、Kyashアプリでは登録したクレジットカードから指定の金額を入金する機能を廃止することも明らかにされている。残高が不足したときに登録したクレジットカードから差額が決済される「カードリンク機能」は継続して提供されるとのことだが、クレジットカードからの入金が不便になったことなどからSNSでは不満の声も少なからず上がっている。

 ただ、Kyash社は一連のアップデートの実施直前となる2020年12月7日、急遽アップデート内容の見直しを発表。残高利息に関して「当初想定していなかった混乱が生じる懸念がある」などの理由からいったんリリースを中止し、サービス名称や内容を見直すとしている。

 とはいえサービス自体の中止をするわけではないことから、同社の方針自体を転換したのではないとみられる。それゆえ同社について、一連の施策によって決済よりも残高、ひいては金融を重視したサービスへと移行しようとしている様子を見て取ることができる。銀行業ではないが別の形で銀行に近いサービスを提供することにより、金融の領域へと大きく踏み込もうとしているように感じるのだ。