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開閉屋根のスタジアムにイノベーションを起こす

メルセデス・ベンツ・スタジアムの西側外観。アトランタ・ファルコンズ元本拠地「ジョージア・ドーム」の駐車場だった敷地に建設した。同ドームは17年11月に爆破解体された。写真左手がその跡地で、現在はホテル開発などが検討されている。写真右手側には住宅街が広がる(写真:谷口 りえ)
メルセデス・ベンツ・スタジアムの西側外観。アトランタ・ファルコンズ元本拠地「ジョージア・ドーム」の駐車場だった敷地に建設した。同ドームは17年11月に爆破解体された。写真左手がその跡地で、現在はホテル開発などが検討されている。写真右手側には住宅街が広がる(写真:谷口 りえ)
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 メルセデス・ベンツ・スタジアムの設計者は、5者指名によるプロポーザルでHOKに決まった。プロポーザルを主催したAMBグループは、その提案を一目で気に入り、デザインの方向性にもGOサインを出した。ジョンソン氏によると、プロポーザル時のコンセプトやプランは途中で大きく変わることなく、完成に至ったという。

AMBグループによると、試合やコンサートなどの興行による来場者数は、18年1月時点の累計で約174万6160人(写真:AMB Sports + Entertainment)
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AMBグループによると、試合やコンサートなどの興行による来場者数は、18年1月時点の累計で約174万6160人(写真:AMB Sports + Entertainment)

 アトランタ・ファルコンズ最高経営責任者のリッチ・マッケイ社長は、HOKのデザインを採用した理由について、次のようなコメントを日経アーキテクチュアに寄せた。

 「プレゼンテーションで示された設計案に、別のスタジアムを思い出させる要素があれば、我々はすぐにリストから外しただろう。だが、HOKの提案は独特の屋根デザインや動き、360度スクリーンを実現する技術に至るまで、新鮮で大胆かつ革新的だった。そしてそれは、スポーツやエンターテインメントの場を再定義し、比類のない体験をファンに提供したいという我々のビジョンと一致していた」

 HOKのジョンソン氏は、米国初の開閉屋根を備えるアリゾナ・ダイヤモンドバックス本拠地の「チェイス・フィールド」を設計した実績を持つ。「プロポーザルのプレゼンテーションの際、チェイス・フィールドから始まった米国の開閉屋根の歴史を説明したうえで、3つの選択肢を示した」と振り返る。

米国の設計事務所HOK(ヘルムース・オバタ・カッサバウム)のデザインプリンシパルで上級副社長を務めるウィリアム・ジョンソン氏。メルセデス・ベンツ・スタジアムのプロポーザル時は、360 Architectureのシニアプリンシパルとして、プロジェクトを統括。同社は2015年にHOKと合併した(写真:HOK)
米国の設計事務所HOK(ヘルムース・オバタ・カッサバウム)のデザインプリンシパルで上級副社長を務めるウィリアム・ジョンソン氏。メルセデス・ベンツ・スタジアムのプロポーザル時は、360 Architectureのシニアプリンシパルとして、プロジェクトを統括。同社は2015年にHOKと合併した(写真:HOK)
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 「1つ目は、これまでの開閉屋根を踏襲した最後の作品にすること。2つ目は、開閉屋根はもう古いと考えて、開閉屋根自体をやめること。最後が、もう1度イノベーションを起こし、新しい開閉屋根を生み出すこと。もちろん我々は、3番目のプランを選んでもらうために、約5カ月間かけて提案を磨き上げた」(同氏)

アトランタの街並みから見えるメルセデス・ベンツ・スタジアム。事業者のAMBグループはスタジアムの建設に際して、周辺地域の活性化も重視した。低所得者が多く住む「ウエストサイド」に雇用を生み出すための職業訓練などの取り組みも始めている(写真:谷口 りえ)
アトランタの街並みから見えるメルセデス・ベンツ・スタジアム。事業者のAMBグループはスタジアムの建設に際して、周辺地域の活性化も重視した。低所得者が多く住む「ウエストサイド」に雇用を生み出すための職業訓練などの取り組みも始めている(写真:谷口 りえ)
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 巨大な360度スクリーンと屋根架構を一体で解く斬新なデザインだけではなく、稼働時のコスト面などで無理が生じない開閉屋根機構の開発や米国発の環境性能評価システムであるLEEDプラチナの取得などにも対応した。オーナー陣は今後、周辺エリア全体で集客力を高め、地域活性化の核としていく考えだ。

メルセデス・ベンツ・スタジアムの夕景。アトランタの新たなランドマークになっており、スタジアムを背景に写真を撮る観光客も多く見かけた(写真:谷口 りえ)
メルセデス・ベンツ・スタジアムの夕景。アトランタの新たなランドマークになっており、スタジアムを背景に写真を撮る観光客も多く見かけた(写真:谷口 りえ)
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 日本においても、政府が掲げる「スタジアム・アリーナ改革」などを追い風に、各地で「稼げる施設」を目指す大規模スタジアムの整備計画や構想などが相次いでいる。単に米国の先進事例を模倣したスタジアムをつくることを薦めたいわけではない。学ぶべきは、利用者の最新ニーズや周辺のにぎわい創出をハードに織り込む姿勢だ。利用者から長く愛され、地域活性化の核となるスタジアム・アリーナとするためには、地域の特性を生かしながら、「体験」をデザインする設計者の姿勢が欠かせない。

※日経アーキテクチュア3月8日号では、特集「都市の新鉱脈 日米スタジアム徹底解剖」を掲載している。メルセデス・ベンツ・スタジアムの詳細やその他の注目事例や国内施設の動向を紹介している。