足元の円安を受けて製造業の国内回帰が進んでいる。海外の人件費高騰や輸送費の急激な変動などから、日本国内で製造してもコスト競争力を維持できると判断する企業が増えているのだ。輸入原材料費の増加や、日本の給与の国際的な低下など課題はあるものの、記者は日本が「ものづくり大国」として復活するための追い風になると期待する。普段取材する企業からは「技術力の強化につながる」と歓迎する声も聞かれる。
半導体や電子部品を中心に製造業を取材してきた記者にとって、国内回帰の衝撃は特に大きかった。コスト競争の激しいこれらの産業では、これまで中国など人件費の安い国へ工場を移転したり、製造委託したりすることが当たり前だったからである。ところが、今では逆に外資系企業が日本国内に拠点を設ける事例もあり、エンジニア不足が懸念されるほどだ。
半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県にロジック半導体の工場を建設するのは、その象徴的な出来事といえる。日本による多額の支援などさまざまな要因が重なった誘致だが、コスト管理の厳しさで有名なTSMC経営陣が日本進出を決めた背景には「日本の人件費が他国に比べて安くなったから」と推測する声も多い。
国内の安い人件費は生活水準の低下や人材の国外流出といったリスクを抱えるが、製造現場が日本に戻ってくればものづくりのノウハウが国内に蓄積され、企業の競争力向上につながるメリットがある。中小企業やスタートアップ企業を取材していて、こうした傾向を感じる機会が増えた。
スタートアップも国内回帰
例えば、農業・建設土木向けの搬送用ロボットを開発・量産するスタートアップCuboRex(キューボレックス、東京・葛飾)も、円安などの影響を受けて日本での製造を増やしている。同社は、運搬ロボットなどの駆動機構として機能するクローラーユニットなどの製造を手掛ける。未整備の道やぬかるみでも移動できるのが特徴だ。当初は中国に多くの部材を外注していたが、足元の円安によるコスト増を受けて、日本で製造の割合を増やしている。