最近、毎日のように目にする「遺伝子」という言葉。東京・神保町の建築専門書店「南洋堂」の関口奈央子氏が、建築の「遺伝子」について考えてみたくなる近刊3冊を紹介します。

 突然「ヴィーガン(完全菜食主義者)」になった友人がいる。母は「コンビニ食はなるべく食べたくない」と言う。世の中いろんな人がいるなぁ、としみじみしながら食べるポテトチップスの袋の裏を見れば「『遺伝子』組み換えでない」と書いてある。えっ、この表示のない食品は、すべて組み換えているってことなの? なんか私まで不安になってきた。

 「遺伝子」を人工的に操作する「遺伝子工学」の発達は日々目覚ましく、「DNA解読技術」によって、考古学では分からなかった「人類の進化」に関する新事実が続々と明らかになっている。そういえば、森美術館で開催中の展覧会のタイトルにも「遺伝子」が使われている(「建築の日本展 その遺伝子のもたらすもの」)。最近やたらと目にするワード、「遺伝子」。今回は「建築の遺伝子」について考えたくなる3冊を紹介したい。

「バベる 自力でビルを建てる男」

「バベる 自力でビルを建てる男」の表紙
「バベる 自力でビルを建てる男」の表紙

 家の壁や家具を、ペンキで塗るのが好きだ。「自分の手が入ったもの」に囲まれて生活するのは気分がいい。なんて、本書「バベる 自力でビルを建てる男」を読んだら、そんなレベルで喜んでいる自分が恥ずかしくなってきた。

 本書は、東京都心に土地を買った著者が「セルフビルド」で住居を建てる過程を追った記録。「セルフビルド」と聞くとログハウスのような「木造」を想像しがちだけれど、この「蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)」は鉄筋コンクリート造。著者は我流の配分でコンクリートをこね、友人知人と一緒に少しずつ打設を進めている。苦労も多いビル建設へと著者を駆り立てるのは、なんといっても「つくる悦(よろこ)び」。初めて完成させた床の上ではあぐらを組み、「戦に勝って新たな領土を手にした戦国武将」のごとく喜びをかみしめる。

 かつては、バックミンスター・フラーやジャン・プルーヴェ、川合健二のように「セルフビルド住宅」に夢を見た先駆者たちがいた。さらに遡ってみると、はるか太古の時代には「竪穴式住居」を建てた祖先がいる。きっと人間の遺伝子には「セルフビルド精神」が脈々と流れているのだ。大規模開発だらけの現代の都市に出現した「蟻鱒鳶ル」は、私たちの遺伝子に刻まれたセルフビルドの記憶を呼び起こす。

著者:岡啓輔
判形:四六判
ページ:288ページ
出版社:筑摩書房
発売:2018年4月
定価:本体2200円+税