日経アーキテクチュアの最新号に掲載した建築物をピックアップ。今号の1枚は、吉田誠さんが撮影した「釜石市民ホールTETTO」です。「建築プロジェクトデータベース」(日経 xTECH有料会員サービス)では、雑誌の発行と連動して最新の建築情報を更新。概要データや写真・図面などを見ることができます。
(日経アーキテクチュア3月22日号フォーカス建築から)
東日本大震災で被災した釜石市民会館に代わり、市街地の中心に2017年末、釜石市民ホールが完成した。街から内部の活動が見えるよう、練習スタジオやギャラリー、小ホールを外側に配置した。可動式の客席を奥へ収納し、建具を開放すれば、ホールから広場まで貫く平土間空間が現れる。
岩手県の南東、三陸沿岸部にある釜石市は近代製鉄業発祥の地として知られる。2011年の東日本大震災で被災し、最盛期は9万人を数えた人口は3万5000人まで減少している。
被災した釜石市民会館の再建は、震災以前から空洞化が進んでいた中心市街地に人を集め、活性化を図るものだ。釜石市は、公募型プロポーザルでaat+ヨコミゾマコト建築設計事務所(東京都新宿区)を設計者に選定。同事務所のヨコミゾマコト代表は、市が計画していた広場に、ガラスの大屋根を架けた理由をこう説明する。「屋根付きの都市広場が、自然と人が集まる場所をつくるのに適していると考えた。屋根の下に人が集まり、その先の市街地に人を導く」
ヨコミゾ氏は、市民ホールの内部まで街の一部となるように設計した。例えば、街路のようにホールAのまわりを1周できる通路と出入り口を設けた。イベントがない日でも、市民が施設内を歩き回り、2階観客席に座って無垢(むく)材で囲まれたホールを眺める姿が見られる。
平土間仕様にすると、ホールが街と一体になる。ホールAの1階客席を幕の裏に収納し、ロビーとの間を仕切る高さ約4mの大型建具を開放すると、ホールAとロビーが1つの空間となる。さらにホールBの両側の建具を開放すれば、ホールAから広場まで長さ70m超の平土間空間になる。敷地内に点在するウッドデッキは、建物の内外、ロビーとホールなど異なる領域をまたぎ、土間でつながる空間全体の一体感を生む。
街から中の様子が見えるようにガラス張りの空間をホールの外側に配置した。構造設計を担当したアラップの金田充弘シニアアソシエイトは、「ホール部分は音響性能を担保するために鉄筋コンクリート造。コンクリートのホールに鉄骨とガラスが巻き付く形だ」と説明する。
被災地で復興工事が重なり、材料や職人の調整が難しい時期ではあったが、施工予定者がコスト調整などを支援するECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント)方式の採用によって工期が短縮できた。発注者支援と施工を担当した戸田建設の関宏和作業所長は、「ECIでなかったらもっと工期が延びていただろう。実施設計から参加したからこそ工期に影響しない変更ができた」と話す。