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 日経アーキテクチュアの最新号に掲載した建築物をピックアップ。今号の1枚は、吉田誠さんが撮影した「富岡市役所」です。「建築プロジェクトデータベース」(日経 xTECH有料会員サービス)では、雑誌の発行と連動して最新の建築情報を更新。概要データや写真・図面などを見ることができます。

行政棟のエントランスまわりは3層吹き抜け。2階と3階をつなぐ階段からは街の風景を眺められる。壁面に張られているのは、「きびそ」と呼ばれる生糸を用いた壁紙。ガラスの手すりには、きびそをスキャンした柄をランダムに組み合わせたセラミックプリントを施した(写真:吉田 誠)
行政棟のエントランスまわりは3層吹き抜け。2階と3階をつなぐ階段からは街の風景を眺められる。壁面に張られているのは、「きびそ」と呼ばれる生糸を用いた壁紙。ガラスの手すりには、きびそをスキャンした柄をランダムに組み合わせたセラミックプリントを施した(写真:吉田 誠)
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(日経アーキテクチュア6月28日号フォーカス建築から)

 2017年7月の窓口業務開始を皮切りに、順次、敷地内の新庁舎への引っ越しを進めてきた富岡市役所が、3月24日に落成式を迎えた。移転完了後、旧庁舎を解体した跡地は、芝生の広場になった。

 「普通ならば、利便性を優先して庁舎の目の前は駐車場にする。今回もそうした案はあったが、あえて人のにぎわいを呼ぶコミュニティースペースにした」。そう話すのは、新庁舎の設計を手掛けた隈研吾建築都市設計事務所(東京都港区)の隈研吾氏。12年に富岡市が実施した公募型プロポーザルで設計者に選ばれた。

 芝生の広場では、週末を中心にイベントが開かれている。集まった人たちは、庁舎の庇の下で日差しを避けたり、木ルーバーの並ぶ2階のテラスに上がったりして、広場と一体的に庁舎を使っている。

 富岡市役所があるのは、上信電鉄上州富岡駅のほど近く。駅から歩くと、広場の向こうに勾配屋根の架かる3階建ての行政棟と議会棟が見える。柱と壁が鉄筋コンクリート造、梁が鉄骨造で、行政棟は7カ所に制振ダンパーを設置している。

 「駅から富岡製糸場までの街全体のアーバンスケープを踏まえて庁舎の設計を提案した」。隈氏がそう話すように、この市役所はにぎわいを呼ぶのと同時に、街なかの新しい動線も意図している。芝生の広場は、L字形に並ぶ2棟の接続部に向けてすぼみながら入り込み、路地のような1階部分をくぐると裏手の住宅地に出る。その先は歩いて数分で世界遺産の富岡製糸場だ。

 3層吹き抜けのエントランスを入ると、製糸産業で栄えた富岡らしい素材が目に入る。「きびそ」と呼ばれる生糸を使った壁紙だ。きびそは、蚕(かいこ)が繭(まゆ)をつくるために最初に吐き出す糸のこと。繊維が粗く硬いため製糸に使えず、多くが処分されてきた。今回、きびその風合いを生かした壁紙を地域の人たちと開発し、庁舎内の各所に張った。

 開発で目指したのは、地域発の新しい商品となるような建材だ。「これからの建築は、地域の小さな産業を活性化させるような生産プロセスを考える必要がある」と、隈氏は指摘する。実際、きびそ壁紙は、群馬県内の会社が商品化している。このほか、富岡市役所では藍染めのパーティションや、樹脂を充填した外装の木ルーバーなどで地域の素材を使っている。