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 今、ポッドキャスト(Podcast)が熱い──。2000年代中ごろのWeb 2.0ムーブメントをご記憶の読者の中には「なんで今頃ポッドキャストなの?」という感想を抱く方も多いのではないか。ポッドキャストはいわば音声版ブログで、RSSフィードの仕組みを利用して音声や動画メディアをプッシュ型で配信するサービスとして登場し、2000年代後半に大いに盛り上がった。

 米アップル(Apple)のiTunesがRSSフィードを集めるアグリゲーション機能を搭載したこともあり、発信者だけでなくリスナーも増加、プッシュ型の音声メディアとしてそれなりに定着した。そもそも「ポッドキャスト」の語源は、iPodの「ポッド」とBroadcastの「キャスト」を合わせたものだ。

 ただ、日本でのポッドキャストの状況を見る限りでは、一時の盛り上がりが去った後は大きく成長するわけでもなく、現状維持で粛々と続けているという印象だった。かく言う筆者も、2006年から2007年にかけて「70年代クラブ」という1970年代の音楽、文化、風俗、出来事などを語るポッドキャストをせっせと配信したのだが、フェードアウトするようにやめてしまった。

 そして、スマートフォンとアプリが全盛の現代、ポッドキャストが新たな形で盛り上がりを見せている。音声コンテンツを配信するアプリが登場し、ポッドキャストの新たなプラットフォームとして成長、注目を集めているのだ。米調査機関のエジソン・リサーチ(Edison Research)が公表した「the infinite dial 2018」によると、米国でポッドキャストを聞いた経験を持つ人の数は1億2400万人(44%)、前月にポッドキャストを聞いたという人は7300万人(26%)に達するという(分母は12歳以上の米総人口)。

非音楽コンテンツに期待する音楽配信事業者

 リスナーが多ければ、発信ビジネスも成立する。企業スポンサーを持つポッドキャストは多数存在するというし、パトレオン(Patreon)というコンテンツクリエイター向けのクラウドファンディングには、リスナーが毎月一定額を支払ってポッドキャスターを応援する、ポッドキャスト向けの集金スキームが用意されている。男性3人組が配信する「Last Podcast」という番組には1万2000人近い応援者がおり、毎月約5万8000ドル(約620万円)を集めている。ユーチューバーならぬ、「ポッドキャスター」という種類の職業が成り立っているわけだ。

コンテンツクリエーター向けのクラウドファンディングPatreonでは、毎月約5万8000ドルの支援を受けるポッドキャスターがいる
コンテンツクリエーター向けのクラウドファンディングPatreonでは、毎月約5万8000ドルの支援を受けるポッドキャスターがいる
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 大手プラットフォームもポッドキャストに力を入れ始めた。2019年2月6日、音楽ストリーミングの大手Spotifyを手掛けるスウェーデンのスポティファイ・テクノロジー(Spotify Technology)は、米アンカー(Anchor)と米ギムレットメディア(Gimlet Media)の2社のポッドキャスト配信事業者の買収を発表した。

 スポティファイのダニエル・エクCEOによると、近い将来Spotifyが配信するコンテンツの20%以上が非音楽コンテンツになると見込んでいるという。その予想が的中するかどうかは分からないが、同社としては、ポッドキャスト聴取が増えれば増えるほど、大手レーベルに支払う音楽のライセンス料を抑えられるという思惑もあるのだろう。

 Gimlet Mediaは、有名人やインフルエンサー的な発信者をそろえる既存ラジオ局に近い考え方のサービスだ。一方のAnchorは、YouTube同様、CGM(コンシューマージェネレイテッドメディア)として急成長している。アプリやパソコンから誰でも簡単に、声による情報発信が可能だ。さらに、Anchorに音声コンテンツをアップロードすると、自動的にSpotifyにも配信が開始される仕組みもある。

 つまり、Spotifyとしては、Anchorからの投稿コンテンツが増え、ユーザーがポッドキャストを聞く時間を増やしてくれれば、ユーザーの可処分時間は有限なので、音楽再生が抑制され楽曲のライセンス料支払いを抑えることができるという流れになる。

 ちなみに、Anchorが実施する他サービス連携施策は、Spotifyだけにとどまらない。筆者は試しに前述の「70年代クラブ」の番組をAnchorにアップロードしたところ、Pocket Casts、Breaker、RadioPublic、Google Podcasts(Google ポッドキャスト)の各ポッドキャストプラットフォームにも自動的に配信が始まった。業界全体でコンテンツを共有して、ポッドキャスト市場を盛り上げようという考え方なのだろうか。

Anchorは、スマホアプリに加えパソコン向けにダッシュボードも提供。筆者番組は日本語トークなのになぜか8割以上のリスナーが米国からアクセス
Anchorは、スマホアプリに加えパソコン向けにダッシュボードも提供。筆者番組は日本語トークなのになぜか8割以上のリスナーが米国からアクセス
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 ポッドキャストプラットフォームの老舗として最大級の規模を誇るのはアップルの「Podcast」だが、お世辞にもサービス向上に注力しているとは言い難い。ただ、2019年秋登場予定のmacOS CatalinaではPodcastが独立したアプリになることから、Spotify対抗で何らかの施策を打ち出してくるのでは、という希望的観測を抱いている。