就職氷河期に社会に出始めた、いわゆるロストジェネレーション(ロスジェネ)が、建築界をけん引し始めています。日経アーキテクチュア2019年7月11日号の特集では、ロスジェネを中心に、最近の活躍が目覚ましい9人をピックアップして紹介しました。タイトルは「ポスト平成の旗手たち(前編) 『デザイン』を問い直すロスジェネ以降の9人」です。
まずは9人の顔ぶれを。
[特集_目次]
- シリーズ令和の革新 ポスト平成の旗手たち(前編)
「デザイン」を問い直すロスジェネ以降の9人 -
- [世界で戦う技] 「時間」を巧みにコントロール
- 石上 純也(石上純也建築設計事務所 主宰)
- 田根 剛(Atelier Tsuyoshi Tane Architects 代表)
- [デザインの概念を変える] 仕組みづくりで課題を解決
-
- 1. 都市開発をデザイン
「Z世代」の行動特性を読み 変化に適応可能な都市を描く
相浦 みどり(PLPアーキテクチュア取締役) - 2. 公共施設の再編をデザイン
あえて小自治体の前線で 「良き前例」をつくり続ける
田畑 耕太郎(住田町建設課技師) - 3. 地域づくりをデザイン
住民を公共サービスの担い手に 地域資源の川辺ににぎわい
天野 裕(NPO法人岡崎まち育てセンター・りた事務局長) - 4. 地方の課題解決をデザイン
水田に浮かぶホテルを皮切りに 持続・自走する地域の実現へ
山中 大介(ヤマガタデザイン代表取締役) - 5. チームワークをデザイン
巨大プロジェクトの「顔」つくる 協調重視の名コラボレーター
永山 祐子(永山祐子建築設計主宰) - 6. シーズをデザイン
茶室型ホテルを自ら設計 広告代理店を経て再び都市へ
各務 太郎(SEN共同創業者) - 7. デジタル活用をデザイン
デジタル駆使し設計者を支援 ロボットで複雑な形状も
竹中 司(アンズスタジオ代表、アットロボティクス代表)
- 1. 都市開発をデザイン
特集を担当したデスク(新人類世代)による“世代分析”を引用します。
「(彼らの取り組みの)共通項として浮かぶ1つが、地方都市のまちづくりだ。人口減少、中心市街地の空洞化など、課題は山積。いかに人を呼び戻し、にぎわいを生むか、建築単体にとどまらない仕組みづくりが求められている。
もう1つが、どんな建築をつくればいいのか。市場を掘り起こすことだ」
こういう若手主体の企画をやると、取り上げられた当事者からは「世代でひとまとめにしないで」とよく言われます。自分自身も20代のころには「育った環境も違うし、生まれ年でくくられても……」とよく思ったものです。一方で、上の世代からは、「実績の少ない若手を持ち上げるのは若手読者のためか」といったお叱りもいただきます。
それでも時折、若手に注目した企画をやるのはどうしてか。正直に言うと、若手に読んでほしいというのは理由の半分にすぎません。もう半分は、上の世代へのメッセージです。
自分が年をとって分かってきたのは、「自分の世代の特色は、自分より下の世代が活躍するようになって分かる」ということです。言い換えると、下の世代がどう注目されるのかによって、自分たち世代に「欠けているもの」が見えてきます。今回の特集も、目的の半分は、バブル世代やさらに上の世代に、「なるほどそういう視点があったか」と発奮してもらうためです。
バブル世代ど真ん中の私が特に感心したのは、ヤマガタデザイン代表取締役の山中大介氏。昨年、山形県鶴岡市に坂茂氏の設計によるホテル「SHONAI HOTEL SUIDEN TERASSE(スイデンテラス)」をオープンさせました。
これは私も実物を見に行きました。「水田の中のホテル」というと、中国の山水画のような宿泊施設をイメージするかもしれませんが、敷地は四角いビルがぽつぽつと立つサイエンスパークの一画。そこに水田の風景を生かした木造のホテルをつくったのです。バブル世代であれば、周囲から隔絶した“別世界”をつくりそうなところですが、このスイデンテラスは、なんとも言えない“周囲との共存感”が新鮮でした。
特集の記事にはこう書かれています。「山中氏はヤマガタデザインで、地域課題をデザインし、それによって持続・自走する地域を実現することを目指している」。なるほど、「持続・自走する地域」は「別世界」をつくることでは生まれません。そういう視点を持つクライアントが今後はホテルに限らず、建築の在り方を変えていくのではないかと感じました。
ほかの8人の記事にも、それぞれ今後の参考になるヒントがあります。ぜひお読みください。次号の後編もお楽しみに。
そして現在、この前後編特集のスピンオフ企画とも言える「建築を変える注目株 令和の旗手たち」を当サイトで連載中です。こちらものぞいてみてください。