緊急事態宣言が全国で解除されました。経済再開へ向けて少しずつではありますが、各地で新たな模索が始まっています。日経アーキテクチュア2020年5月28日号の特集は「アフターコロナの建築・都市」です。建築界は未曾有の災厄を克服し、新たなステージへ進めるのか、キーパーソンにインタビュー。徹底した取材によって、実務や市場のニューノーマル(新常態)を予測しました。
この数年、活況を呈してきた建設市場ですが、コロナ・ショックで暗転しそうです。影響は建築物着工床面積の量的な減少にとどまりません。外出自粛や在宅勤務を経験したことで、建築物に対する発注者や利用者のニーズが激変する可能性があります。
特集で日経アーキテクチュアは、サトウファシリティーズコンサルタンツ(SFC)や不動産サービス大手のシービーアールイー(CBRE)、経営コンサルティング会社のA.T.カーニーなどへの取材を基に、建築需要の「天気図」を作成しました。コロナの影響が大きい用途は何かを探っています。
需要の「量」に加えて「質」や「構造」が大きく変化しそうなのがオフィスです。オフィスの着工床面積は新型コロナの感染拡大前から減少傾向にありました。コロナ禍をきっかけにテレワークが常態化すれば、企業は従来のように広大なオフィス面積を確保する必要がなくなります。在宅勤務の常態化や企業の固定費削減の動きは、建築需要減を加速させる恐れがあります。SFCの佐藤隆良社長は、オフィスの20年の着工床面積が前年比4%減の510万m2となり、以後3年間ほど減少傾向が続くと予測します。
一方、オフィス市場が単純に縮むとは限らないとの見方もあります。CBREリサーチの大久保寛エグゼクティブディレクターは、「皆が丸の内の本社に出勤するような、これまでの働き方は過去のものになるだろう。ただし日本の住宅事情を考えると、在宅勤務にも限界がある」と語ります。オフィスと住宅の中間を埋めるようなサテライトオフィスなどの需要が、20年後半以降に顕在化してくる可能性があるとの見立てです。
満員電車に長時間揺られてわざわざ会社に来なくても、意外に仕事は回る──。このように実感した企業経営者やビジネスパーソンは少なくないでしょう。では、企業は何のためにオフィスを構えるのか。社会がかつてない変化を経験したことで、オフィスに求められる役割や機能の見直しも始まりそうです。特集では、ワークプレイス設計の先駆的企業であるゲンスラーの天野大地クリエイティブディレクターや、建築家の内藤廣氏、隈研吾氏に、今後のオフィスの未来を展望してもらいました。
詳しくは日経アーキテクチュアをご覧いただきたいのですが、企業の体制や消費の在り方が変わる中、オフィスにとどまらず、店舗、ホテル、医療施設、住宅といった様々な用途でも同様の変化が進むでしょう。東京一極集中の都市構造も見直されるかもしれません。集約ではなく分散を、対面よりもオンラインで。社会が求める新しい空間を建築の専門家はいかに提示していくか、本当の試練はこれからやって来ます。
アフターコロナの建築・都市
実務や市場のニューノーマルを徹底予測
プロローグ
コロナ禍が建築界に与えた試練
実務者に緊急アンケート
工事の中断、賛成派は約7割
建築のプロはこう動いた
(1)坂茂氏 ネットカフェ難民に紙管の間仕切りを
(2)田辺新一氏 「換気」目線で感染防止策を助言
(3)元谷外志雄氏 2300室ホテルにコロナ患者受け入れ
建築需要「天気予報」
コロナの影響が大きい用途は?
建築設計が変わる
3つの「Re」でオフィス見直し
INTERVIEW 建築・都市のニューノーマル
内藤廣氏 失敗する巨大案件も、都市は次のフェーズへ
隈研吾氏 公共の空間が都市の「主役」になる
加速する建設DX
「デジタルツイン」が勝負を分ける