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 2018年の西日本豪雨、19年の東日本台風、そして、九州・中部地方などで猛威を振るった20年7月豪雨――。激甚化する豪雨や台風から建物をいかに守るべきか、いま問われています。日経アーキテクチュア2020年8月13日号の特集「耐水建築」では、浸水した建物の被害を分析するとともに、具体的な水害対策に乗り出した官民の動きを追いかけました。

(写真:陸上自衛隊第8師団)
(写真:陸上自衛隊第8師団)
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 特集では冒頭、7月豪雨で被災した熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」の浸水被害について詳報しました。山と川に挟まれた千寿園の敷地は、洪水浸水想定区域、土砂災害警戒区域いずれにも含まれていました。施設では避難確保計画を作成し、訓練もしていましたが、14人が犠牲になりました。専門家からは、避難を前提にしない対策を求める声も挙がっています。

 気候変動の影響で豪雨の発生確率は年々高まっており、水害への備えは建築設計や街づくりにおいて、耐震や防耐火と並ぶ最重要テーマに浮上しています。建物の浸水リスクを下げるには、浸水想定区域外の敷地を選ぶのが近道。しかし、利便性や建設コストなどを考慮し、浸水エリアに建設せざるを得ない場合は少なくありません。建物が浸水しても命を守り、機能を継続させる“耐水設計術”は、日本の都市における現実的な解と言えるでしょう。

 特集の後半では、こうした豪雨対策を施した設計事例を紹介しました。例えば、18年10月に新棟が竣工した「鳥取県立中央病院」(鳥取市)では、1階をピロティとして、想定浸水深より高い位置に免震層を設置。主要な機能やインフラ設備を浸水リスクが低い2階以上に配置しました。さらに洪水と津波の複合浸水を想定し、「水防ライン」を2重に設定。救急用や搬送用に必要なエレベーターの浸水対策を徹底しています。

(写真:佐藤 和成、鳥取県立中央病院、資料:鳥取県立中央病院、取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
(写真:佐藤 和成、鳥取県立中央病院、資料:鳥取県立中央病院、取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 水害への備えとして土木の治水対策だけでは限界があることはもはや明らかですが、ソフト対策の実現にも困難がつきまといます。一方で、建築物の水害対策に関する研究開発はようやく始まったばかり。建築実務者が今後の防災に向け、どのような取り組みが必要かを考えるきっかけにこの特集がなればと思います。

<特集 目次>

耐水建築
待ったなし、建築・都市の浸水対策

「7月豪雨」の警鐘
千寿園の悲劇が映す治水の限界

 ルポ・人吉市浸水被害
急激な水位上昇で住宅が水没

東日本台風の教訓
実録・浸水タワマン復旧への道程

 川崎市市民ミュージアムの惨状
収蔵品水没、施設解体も視野

浸水対策の先進事例
重要設備を守る鉄壁の耐水設計

 鳥取県立中央病院
浸水対策と使い勝手を両立

 豊洲ベイサイドクロス
「街の非常電源」を地上階に

岐路に立つ街づくり
浸水対策に右往左往する自治体

 福岡県大牟田市、福島県須賀川市
相次ぐ「居住誘導区域」の浸水被害

 京都府福知山市
福知山水害訴訟、衝撃の判決

 水害に翻弄された庁舎移転
着工目前で計画が白紙に、苦渋の敷地選定

先行自治体に学ぶ
滋賀「流域治水条例」その後