「改正意匠法は、建築や内装などの空間も、企業やブランドの資産に値することが認められたということ。そして空間という資産を守る流れが始まったということでもあります」。クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏は、日経アーキテクチュアの取材に対し、こう語りました。
創刊45周年となる日経アーキテクチュア2021年4月8日号の特集は「意匠権ウォーズ」です。意匠権の保護対象を建築物・内装に広げた改正意匠法の施行から1年。大手企業を中心に意匠登録出願が相次いでいます。建築デザインの新たな権利が、実務やビジネスにどのような影響を及ぼすのか。意匠権を取得した企業など最前線を取材し、その影響を探りました。
建築物の意匠登録第1号となったファーストリテイリングの「商業用建築物」、内装の意匠登録第1号となったくら寿司の「回転寿司店の内装」は、いずれも佐藤氏が創作者として名を連ねています。佐藤氏はインタビューで意匠登録やデザインにかけた思いを語った上で、「空間のデザインもこれから独自性や本当の価値が求められる時代になるでしょう。曖昧にやっていては成り立たない」と断じています。
特集では、改正法施行から約1年間で登録された建築物・内装の意匠を一覧でまとめています。日経アーキテクチュアが21年3月15日時点の登録件数を集計したところ、建築物・内装の意匠登録は107件に上ることが判明しました。建築物が86件、内装が21件で、権利者別に見た登録数は積水ハウスの28件が最多。大東建託、ミサワホームといった住宅会社が続きました。住宅会社以外では、大林組の8件が目を引きます。
水面下で進む意匠登録出願。建築物の意匠登録では住宅分野が約8割を占めていましたが、徐々に非住宅も増えるとみられます。各社から期待の声が上がるのは、安易な模倣の抑止効果です。取材では、意匠公報などでデザインが公開されること自体が同業他社へのけん制につながる、との声が複数聞かれました。
同じようなデザインが相次ぎ出願されたなら、権利者は早い者勝ち(先願)で決まる──。意匠登録制度にはそんな争奪戦の側面があります。いったん権利が確定すれば、権利者は侵害行為の差し止め請求や損害賠償請求を行えます。意匠登録の件数が増えれば、他者の意匠権を侵害していないか、調査が不可欠となっていくに違いありません。
意匠権の「権利者」は誰か? 権利侵害で訴えられたら? 建築は模倣から始まるものでは? 特集では、TMI総合法律事務所の弁理士と弁護士に改正意匠法対応のポイントを解説してもらいました。コンペ応募時の対応など、ヒントになると思います。ぜひご一読ください。
意匠権ウォーズ
改正意匠法施行から1年、デザインを武器にせよ
意匠登録総まくり
新制度による登録は100件超、最多は積水ハウス
店舗デザインを守れ
ユニクロ、くら寿司、蔦屋書店、登録登録1番手企業の思惑とは
インタビュー│佐藤可士和氏
「曖昧では成り立たない」、僕が“第1号”を獲得できたワケ
建築界のフロントランナー
大林組は「全創作物を出願」、権利で設計の自由を守る
動向|見えてきた建築界の対応
病院の間取りで意匠権取得、非住宅でも出願ラッシュ
対応の手引き
「出願は早い者勝ち」、意匠登録出願の要件とは
実務に役立つ|意匠法Q&A
弁理士・弁護士が答える、建築と意匠権3つの疑問