クラボウと東京大学大学院は、建設用3Dプリンターで造形物の性能を向上させる「メタマテリアル技術」の確立に向け共同研究を始めた。内部にトラス構造などを組み込むことで強度やじん性を高める。
セメント系材料を用いた造形物に断熱や遮音といった特性を付与できる可能性もある。具体的な構造の検討や製造に取り組む他、耐久性などを予測する構造解析手法を実証する。
メタマテリアル技術とは一般に、物質の内部構造を工夫して性能を向上させたり、自然界には存在しない新たな性質を獲得させたりするものだ。光工学の分野では、光の屈折率を変化させて覆ったものが透明になったように見える「透明マント」といった新技術の開発に生かしている。
建設分野においては、構造物や造形物にミリメートルからセンチメートル単位の大きさのトラス構造などを組み込むことで、性能の向上を期待できる。東京大学大学院工学系研究科コンクリート研究室の大野元寛助教は、「材料設計と構造設計との間に位置する、新しい設計のレイヤーとなる技術だ」と説明する。
例えば、東京大学大学院とクラボウが試作した造形物は、細かなトラス構造を組み合わせた形状だ。内部構造を持たないセメント系材料の単なる塊と比べ、体積当たりのエネルギー吸収量が大きい。ダンパーとしての利用などを見込める。
メタマテリアル技術によって、圧縮すると直角方向に縮む「負のポアソン効果」や、力が作用する向きによって剛性が変わる「剛性の異方性」といった特殊な物性を持つセメント系の造形物を製造できる可能性もある。
クラボウ化成品事業部の平山貴之技術統括部長は、「省資源化の効果にも期待したい」と話す。材料の使用量を抑えて、従来と同等以上の性能を発揮できる造形物の実現も考えられるからだ。
これまでセメント系材料を用いた施工には型枠が必要で、細かな造形の実現は難しかった。3Dプリンターの登場で造形の自由度が高まり、メタマテリアル技術を検討できるようになった。
クラボウは、2021年に建設用3Dプリンターによる造形物の受注生産を開始。大阪府寝屋川市の工場にフランス・XtreeE(エクストリー)社製の3Dプリンターを導入している。多関節のロボットアームの先端から材料を吐き出す方式で、フレームに沿ってノズルを動かす門形の3Dプリンターなどに比べて細かな造形に適した機種だ。メタマテリアル技術との相性がよいため、東京大学大学院の誘いを受けて共同研究に至った。