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「昔の石橋を復元してほしい」

 同じくDEJIMA BASEのコアメンバーであるネイ&パートナーズジャパン(東京都渋谷区)の渡邉竜一代表も、別の観点からこのプロジェクトを進めていくうえでの危機感を持っていた。渡邉代表は出島表門橋の設計担当者だ。

ネイ&パートナーズジャパンの渡邉竜一代表(出所:日経コンストラクション)
ネイ&パートナーズジャパンの渡邉竜一代表(出所:日経コンストラクション)
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 市は公園や橋のデザイン、検討経緯を市民に知ってもらうために、13年から15年の設計期間に、デザイン検討会議やシンポジウムを一般公開で進めてきた。渡邉代表は、「公開することは素晴らしいが、参加者は限られておりメンバーも同じ人たち。そこで市にお願いして、別途、地元の人たちを集めてもらって説明会を実施した」と明かす。

 ところが、いざ説明会を開催すると、市民から浴びせられたのが「こんな橋はいらない」、「昔の石橋を復元してほしい」という批判的な声だった。江戸時代に、出島と対岸をつないでいたのは橋長4.5mの石橋だ。中島川の変流工事で川幅が拡幅し、明治期に撤去された。現在の川幅は30mほどあり、昔のような石橋は架けられない。復元と誤解されないような橋を架けることは、文化庁から市への指導事項でもあった。

 議論が紛糾したまま説明会が終わろうとするなか、一石を投じたのが渡邉代表だった。マイクを取って「僕は皆さんの思いを知りたいです」と語りかけたところ、閉会後に5、6人の地元の人たちが渡邉代表の下に駆け寄り、自分たちの思いを話し始めたという。

 渡邉代表は翌週も再び長崎を訪れ、市に依頼してこの時の地元の人たちに集まってもらい、2日間かけて話し合いの場を持った。

 「このままではいけない。とにかく話を聞くことが大事だと思っていたので、その場で何かが決まるということはなかった。僕も昔の橋を復元できるならばやりたいが、物理的にそれは不可能だ。昔の橋を造りたいという人たちと、橋の形式について話し合っても平行線をたどるだけなので、どのような思いで橋を架けようとしているのかを話したり、『長崎くんち』の話を聞いたりするなどして、ほぼ雑談で終わった」(渡邉代表)。

西側から出島表門橋を望む。現在の川幅は30m程度で、昔のような石橋は架けられない。出島表門橋は橋長38.5m、幅員4.4mの鋼2径間連続鈑桁橋だ(写真:イクマ サトシ)
西側から出島表門橋を望む。現在の川幅は30m程度で、昔のような石橋は架けられない。出島表門橋は橋長38.5m、幅員4.4mの鋼2径間連続鈑桁橋だ(写真:イクマ サトシ)
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