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世界でも類例がない駅前広場

 小野寺代表は、今回のプロジェクトを次のように振り返る。

 「もともと皇居と東京駅の間には、空間としての軸線があったが、車のために使われるなど、うまく活用されていなかった。今回のプロジェクトはトータルデザインによってこの軸線上に人間のためのスペースを創出し、東京の『顔』、ひいては日本の『顔』をつくろうというものだ」。

 具体的な設計では、皇居と東京駅舎に対するリスペクトを忘れずに、本来あるべき軸線をひたすら形にしていくような作業だった。石畳や並木、照明、植栽升など広場を構成する各々の要素が、他を差し置いて目立つようなデザインは一つもない。

 「それぞれが主張するようなデザインでは、長い時間を耐えていくことは難しい。これから何百年と続いていくことのできる空間デザインを、関係者の皆でつくりあげていったつもりだ」(小野寺代表)。

 首都・東京の玄関口にふさわしい、歴史と風格を備えた一体感のある景観を創出するために、大きな役割を果たしたのが、前編で述べた「東京駅丸の内口周辺トータルデザインフォローアップ会議」だ。

 メンバーの一人であるナグモデザイン事務所(東京都渋谷区)の南雲勝志代表は、「会議は当初から、『世界に誇れる場所を本気でつくろう』という雰囲気に満ちていた。イタリアやフランスから訪れた人たちに、『シャンゼリゼのまねだね』と言われるのではなく、『日本を感じる素晴らしいデザインだ』と言われるような、世界のどこにもない一流の場所にしようと考えていた」と振り返る。

2010年に先行して改修整備した行幸通りの丸の内区間から東京駅の赤レンガ駅舎を望む。3階建ての赤レンガ駅舎は12年に復元(写真:安川 千秋)
2010年に先行して改修整備した行幸通りの丸の内区間から東京駅の赤レンガ駅舎を望む。3階建ての赤レンガ駅舎は12年に復元(写真:安川 千秋)
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行幸通りの丸の内区間から駅舎を見た昼景(写真:安川 千秋)
行幸通りの丸の内区間から駅舎を見た昼景(写真:安川 千秋)
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 鉄道駅前にこれだけの空間を整備するケースは、世界でも類例がないという。「例えば、街の中心に美しい広場を持つフランス・ニースでも、鉄道発祥の地のロンドンでも、鉄道駅舎は立派だけれどひとたび駅舎の外に出ると交通広場のロータリーしかない。駅前の空間は、そこで交通機関を乗り換えて別の目的地に行くための中継点でしかない。欧州の広場は、教会や市庁舎の前に造られるようなケースが一般的。東京駅のように駅前に大きな広場を整備したケースは世界的にみても珍しい」(小野寺代表)。

 そして整備後の駅前広場は、単なる乗り換え地点ではなく、人が集まる場所になりつつあるようだ。都と連携しながら駅前広場を整備した、JR東日本の総合企画本部品川・大規模開発部の有川貞久次長は、次のように話す。

 「丸の内駅前広場を全面オープンして以降、観光客がものすごく増えた。修学旅行生が駅舎をバックに記念写真を撮っている姿をよく見かける。夜はカップルが訪れるようだ。用がなければ来ない場所でなく、“わざわざ”来るような目的地になった。都市観光の場所として、にぎわいの場を形成している 」(有川次長)。

右側が駅前広場で、道路を挟んで左側が行幸通り丸の内区間(写真:大井 智子)
右側が駅前広場で、道路を挟んで左側が行幸通り丸の内区間(写真:大井 智子)
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行幸通りの丸の内区間側から皇居外苑区間を見る。奥に皇居の緑が広がる。昼休みは多くの会社員がベンチ機能を備えたフットライトに座って、昼食を食べたり本を読んだりしてくつろいでいた(写真:大井 智子)
行幸通りの丸の内区間側から皇居外苑区間を見る。奥に皇居の緑が広がる。昼休みは多くの会社員がベンチ機能を備えたフットライトに座って、昼食を食べたり本を読んだりしてくつろいでいた(写真:大井 智子)
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行幸通りの皇居外苑区間から駅方向を望む。周辺の高層ビルには戦前から東京駅周辺に居を構えていた大手企業などが入居する(写真:大井 智子)
行幸通りの皇居外苑区間から駅方向を望む。周辺の高層ビルには戦前から東京駅周辺に居を構えていた大手企業などが入居する(写真:大井 智子)
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