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古材を再生することでものづくりを学ぶ

 改修期間中、市は住民参加の取り組みも実施した。地元の小中学生を対象に、解体した水受け部の古材で日用品などを作るワークショップだ。

 市教育委員会社会教育課で本匠校区コーディネーターを務める企画者の川野敦子氏は、次のように話す。「大水車が止まった1年間は日常の風景が失われ、みなテンションが下がってしまった。通勤や通学の時に毎日、大水車が回っている風景を見てきた人たちは、『いつ動くのかな』『止まったままなのかな』と心配し、動くことを心待ちにしていた」

 川野氏自身も、改修期間中は毎日のように工事現場に足を運んだ。職人たちが大水車を手で回しながら、重さのバランスに配慮して対角線ごとに1枚ずつ部材を取り付けていく様子は、いつまで眺めていても飽きなかったという。

 「大水車が出来上がっていく様を、1日でも見逃したくなかった。熟練した技で新旧の部材を調整しながら組んでいく野瀬さんのすごさを実感し、ものづくりをしている人がどのようなことを考えているのかを知りたいと考えた」(川野氏)

改修工事で、外周部の水受け部材を取り外したところ(写真:佐伯市)
改修工事で、外周部の水受け部材を取り外したところ(写真:佐伯市)
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 ワークショップを実施するきっかけは、野瀬代表との会話だ。敷地の横には、水受け部を解体した古材が丁寧に積み上げられていた。それを眺めていた野瀬代表が川野氏に、「25年前に組み立てた部材なので、いとおしい。芯がしっかりとしたスギ材なので、磨けば簡単な花瓶敷きなどに再生できそうだ」と語りかけたという。

 川野氏はこれを受け、さっそくワークショップの段取りを野瀬氏や地元の小・中学校と相談し、実施に踏み切った。

 ワークショップでは、野瀬氏がきれいにカットして下処理した古材を、小学生や中学生が花瓶敷きに再生した。大水車の完成から25年が経過していたことをヒントに、花瓶敷きの裏には25年後の自分に向けたメッセージを書き込むことにした。

 続けて地元の本匠小学校から、「3、4年生向けに授業してほしい」との要望があった。野瀬代表は、ものづくりの面白さを伝えるために、古材でのペン立て作りを川野氏に提案。これが実現した。

 事前に野瀬代表がペン立てのキット用に古材をカット。子どもたちが2時間ほどかけてペン立て作りに挑戦し、完成品に名前やコメントを書いた。

木工体験のワークショップで子どもたちに語りかける野瀬代表(写真:佐伯市)
木工体験のワークショップで子どもたちに語りかける野瀬代表(写真:佐伯市)
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ワークショップでは野瀬代表がカットしておいた大水車の部材を、ボンドなどを使ってペン立てを組み立てた(写真:佐伯市)
ワークショップでは野瀬代表がカットしておいた大水車の部材を、ボンドなどを使ってペン立てを組み立てた(写真:佐伯市)
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 野瀬代表は、「森の中の1本の木が大水車になり、その後、役目を終えて、さらにペン立てとして生まれ変わった。ペン立てはみなさんが捨てない限り、絶対、壊れません」と子どもたちに語りかけた。その話を聞いて、ある子どもはペン立てに「大水車の木」という文字を書いたという。

 「野瀬代表の話が子どもの心に届いたと感じた。ものづくりは、新しいものをどんどん作ることばかりではなく、ものを大切にすることでもあると実感した」。川野氏はこう振り返る。

地元小学校の3~4年生14人がペン立て作りに挑戦した(写真:佐伯市)
地元小学校の3~4年生14人がペン立て作りに挑戦した(写真:佐伯市)
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