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 ニューヨークでは、25%の市民が経済的な理由でインターネットに接続できない状況にある。このデジタル格差を解消し、さらに増加する観光客の利便性向上を目的とした無料Wi-Fiキオスクの設置が進んでいる。この事業者の一員となっているのがGoogleである。同社は、このキオスクを活用した新たなビジネスの創出に取り組んでいる。

 2014年11月、ニューヨーク市から公衆電話を無料Wi-Fiキオスクに更新する計画「LinkNYC」が公表された。この計画の事業者となったのが2015年6月に設立されたIntersection。モバイル系半導体大手のQualcomm とGoogle が都市をスマート化させるために設立したSidewalk Labs傘下の企業である。

都市のスマート化の要となる無料Wi-Fiキオスク

 2016年1月に最初のキオスクが設置され、3億ドルの費用を投じて市内全域に7500キオスクが設置される見込みである。キオスクには50mの範囲まで届くWi-Fiルーターの他に緊急電話端末、USB充電端子、55インチの液晶ディスプレイが組み込まれている。キオスクの設置費用は全て事業者が負担しており、事業者は24時間ディスプレイに表示される広告によって12年間で5億ドルの収入を見込んでいる。2016年6月時点で既に30万人弱が登録しており、毎週1万人以上の新規登録が行われている。

 Inetersectionの親会社であるSidewalk Labsは、都市をスマート化する最初の一歩としてこの計画を位置づけており、今後公共空間を収益化させるビジネスの根幹として機能することを期待している。キオスクには様々なセンサーが内蔵されており、周辺の歩行者や自動車の動き、振動、騒音、大気などを常にモニタリングしており、さらにWi-Fi利用者のウェブ閲覧履歴や位置情報なども収集しているといわれている。こうしたデータの分析をもとに、今後は広告ビジネスだけではなく、自動運転車の実用化や新たな公共交通システムの導入に向けて活用される予定である。交通渋滞の解消や環境汚染の公共交通の改善や都市計画への展開を視野に入れている。

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市内各地に設置されている無料Wi-Fiキオスク(写真:筆者)
市内各地に設置されている無料Wi-Fiキオスク(写真:筆者)
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スマート化する公共交通システム

 さらにSidewalk Labsでは、2016年3月から米国運輸省と共同で公共交通システムをスマート化させるプロジェクト「Smart City Challenge」を開始した。米国運輸省は対象都市を募集し、AirbnbやUberなど1万社のテック企業が本社を置くサンフランシスコ、ミレニアル層に最も住みたい都市として評価を得ているポートランド、Uberによる自動運転車の実証実験が既に行われているピッツバーグなど78都市が応募した。そして5月に対象地として選ばれたのが米国中西部にあるテックとは無関係のオハイオ州コロンバス市であった。同市は州都として80万人が居住し、人口が急速に増加している成長都市である。しかし、路面電車や地下鉄といった大量輸送機関が整備されていないため、都心部では渋滞が深刻化している。同市では、この問題を解決するために、オンデマンドタクシー、カーシェア、自動運転車などの新技術を導入して解決することを提案した。米国運輸省は、他の民間財団と合わせて1億4000万ドルの補助金を同市に交付することを決定し、Sidewalkや他の民間企業が中心となって問題解決のプログラムを構築している。

 現在、プログラムは大きく分けて2つ計画されている。第一にダイナミック駐車システムの構築だ。一般的に都心部の自動車交通量の約3割は駐車スペースを探すために発生していると言われている。この駐車スペースの探索を効率化させるためにSidewalk Labsは、Google Mapのストリートビューを作成する自動車を市内に巡回させて駐車スペースを常時モニタリングし、交通情報検索アプリFlowを開発して利用情報を公開することで、より円滑に駐車スペースを探し出すことを目指している。この手法は全ての駐車スペースにセンサーを取り付けるよりも低コストで早期に対応することが可能である。さらに同社では、週末や夜間に利用されていない住宅やオフィスの専用駐車スペースを登録してもらうことで、追加コストを発生させずに公共駐車スペースの拡大を目指している。

 第二の取り組みが公共交通機関の拡大だ。公共交通をバスとタクシーのみに依存している同市では、慢性的な渋滞によって自動車を保有しない市民にとって移動しにくい状態にある。そこでSidewalkでは100台の無料Wi-Fiキオスクの設置と市内1万3000台のバスやタクシーにセンサーを搭載し、道路の渋滞状況にあわせて経路や運行間隔を調整しようと考えている。さらにUberやLyftなどのオンデマンドタクシーや、Zipcarなどのカーシェアなども公共交通機関と位置付けて、前述のアプリFlowを用いて道路の渋滞状況や公共交通機関の位置関係から、最適な交通手段や経路、料金を検索することを可能とする予定である。同市では、バスしか交通手段の無い約9万人の低所得者層のモビリティを高めて、教育、医療、雇用の機会をさらに高めたい考えだ。なお、同市ではアプリの利用料収入の1%を受け取る予定であり、年間225万ドルの収入を見込んでいる。

78都市が応募したSmart City Challenge(出典:<a href="https://www.transportation.gov/sites/dot.gov/files/docs/Smart%20City%20Challenge%20-%20Finalist%20Graphic%20in%20Blue.png">米国運輸省ホームページ</a>)
78都市が応募したSmart City Challenge(出典:米国運輸省ホームページ
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 Sidewalk Labsでは、こうした新たな商品やサービスの開発を通して、交通・電力・上下水道などのインフラを効率化するためのプラットフォームを完備したデジタルシティの開発を目指している。この都市開発には、交通渋滞、環境汚染、地球温暖化などの様々な都市問題を解決するためのテストベッドとしての役割が期待されており、同社CEOのダン・ドクトルフ氏(ニューヨーク市元副市長、Bloomberg前CEO)が中心となって100名を超える都市計画の研究者や技術者などが参加する見込みである。

 同社では、このデジタルシティ建設のために既存の法規制が及ばない地区の募集を2016年から開始し、第一弾をトロントのウォーターフロントに決定した。対象地に決定した5ヘクタールの用地は、開発中のデジタル技術や新素材などを最大限活用して、デジタルシティのショーケースとなる予定だ。さらに同社はデトロイトやデンバーなどとも交渉しているとみられ、この取り組みが広がることが予想される。

※本記事は、日経不動産マーケット情報の好評連載「不動産テックの攻防」からの転載です。