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 「国立競技場がよく見えますね」「この高さから間近に望める場所はそうないよ。まさに国立競技場ビューの茶室だな」

 そんな会話が交わされるであろう、面白いプロジェクトがコロナ禍で静かに進められている。

東京大学名誉教授で、江戸東京博物館の館長を務める藤森照信氏(右)。ユニークな茶室づくりで知られる。専門は建築史。藤森氏の隣は筆者(写真:日経クロステック)
東京大学名誉教授で、江戸東京博物館の館長を務める藤森照信氏(右)。ユニークな茶室づくりで知られる。専門は建築史。藤森氏の隣は筆者(写真:日経クロステック)
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この窓から国立競技場を眺める。想像していたより開口部は大きい(写真:日経クロステック)
この窓から国立競技場を眺める。想像していたより開口部は大きい(写真:日経クロステック)
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 「藤森照信氏がつくる茶室から、国立競技場を眺めたい」。東京・渋谷で私設美術館「ワタリウム美術館」を運営する和多利恵津子氏と浩一氏によるこのアイデアが、いよいよ現実になろうとしている。

 国立競技場から半径3km圏内の合計8カ所に、著名な建築家やアーティストが手掛けるパビリオンを建てるという意欲的なプロジェクト「パビリオン・トウキョウ2021」だ。和多利浩一氏はその実行委員会の発起人である。

 参加する顔ぶれは豪華。藤森氏に加え、建築家の妹島和世氏や藤本壮介氏、石上純也氏、平田晃久氏、藤原徹平氏。さらにアーティストの会田誠氏と草間彌生氏がそれぞれ、パビリオンをつくる。主催は東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、そしてパビリオン・トウキョウ2021実行委員会である。

 もともとは20年7月に開催されるはずだった東京五輪に合わせて、文化面から東京を盛り上げるプログラム「Tokyo Tokyo FESTIVAL」の企画公募で選ばれた13の採択プロジェクトの1つだった。だが東京五輪の開幕が21年7月に1年延期となったため、パビリオン・トウキョウも21年版として仕切り直した。

 21年5月中旬時点では、東京五輪の開催が不透明になってきている。だがパビリオン・トウキョウ2021は屋外にパビリオンを設置するイベントであり、今度こそ開催する方向でプロジェクトが進んでいる。

 中でも目玉といえるのが、ユニークな茶室づくりで知られる東京大学名誉教授の藤森氏(現在は江戸東京博物館館長)のパビリオン「茶室『五庵』(仮)」だ。3mほどの高さに、広さが4畳半ある茶室を設け、大きな開口部から、建築家の隈研吾氏らが設計した国立競技場を眺めるというものだ。

藤森氏が制作するパビリオンのイメージ。茶室の床面は地上から3mほどの位置になる。全体では7mほどの高さになる見込み(資料:パビリオン・トウキョウ2021)
藤森氏が制作するパビリオンのイメージ。茶室の床面は地上から3mほどの位置になる。全体では7mほどの高さになる見込み(資料:パビリオン・トウキョウ2021)
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 パビリオンの設置場所は、絶好の立地を確保している。国立競技場の南側(ゲートE方向)、交差点を挟んで向かい側にある「ビクタースタジオ」の前だ。スタジオの駐車場になっているところにパビリオンを建てる。東京の真ん中で藤森氏の空中茶室を体験できるという、建築ファンにはたまらないイベントになりそうだ。

パビリオンの設置場所は、外苑西通りの仙寿院交差点を挟んで国立競技場の斜め向かいに位置する「ビクタースタジオ」の前(資料:パビリオン・トウキョウ2021)
パビリオンの設置場所は、外苑西通りの仙寿院交差点を挟んで国立競技場の斜め向かいに位置する「ビクタースタジオ」の前(資料:パビリオン・トウキョウ2021)
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茶室パビリオンの設置場所付近(地上)から国立競技場の方向を見た風景。実際はもっと高い位置からの眺めになる(写真:日経クロステック)
茶室パビリオンの設置場所付近(地上)から国立競技場の方向を見た風景。実際はもっと高い位置からの眺めになる(写真:日経クロステック)
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 藤森氏のパビリオン制作は、コロナ禍でも順調に進んでいる。日経クロステックは茶室の組み立て現場の取材を許された。筆者は茶室部分を組み上げる21年5月初旬に、埼玉県某所にある制作現場を訪れた。朝から夕方まで、茶室の床と壁、室内のベンチ、にじり口(出入り口)、大きな開口部が出来上がるまでを見届けた。

 目の前で「これぞ、藤森ワールド」といえる茶室が組み上がっていく様子を見ることができた。一足早く、ベールに包まれていた茶室の詳細を報告する。

茶室の床と壁が組み上がったところ。写真手前の壁が外に飛び出している部分は戸袋になる(写真:日経クロステック)
茶室の床と壁が組み上がったところ。写真手前の壁が外に飛び出している部分は戸袋になる(写真:日経クロステック)
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茶室を下から見上げたところ。1階部分はまだなく、実際はもっと高い位置に茶室がくる。1階は外壁を芝で覆った出入り用の待合空間になる予定(写真:日経クロステック)
茶室を下から見上げたところ。1階部分はまだなく、実際はもっと高い位置に茶室がくる。1階は外壁を芝で覆った出入り用の待合空間になる予定(写真:日経クロステック)
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茶室のにじり口に相当する、床の一角に開けた四角い穴。開口のすぐ下が出入り口になる。体験者は1人ずつ、はしごで上り下りする。藤森氏が切り出してきた木がアクセントになっている(写真:日経クロステック)
茶室のにじり口に相当する、床の一角に開けた四角い穴。開口のすぐ下が出入り口になる。体験者は1人ずつ、はしごで上り下りする。藤森氏が切り出してきた木がアクセントになっている(写真:日経クロステック)
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 それにしても、隈氏の代表作になった巨大な国立競技場を、藤森氏がつくる空中に浮かぶような小さな茶室からめでるというのは、洒落(しゃれ)ている。2人は共に、東大で教壇に立った間柄だ。建築史が専門の藤森氏の目に、国立競技場はどう映るのだろうか。設置が待ち遠しい。

藤森氏はパビリオン制作を楽しんでいる(写真:日経クロステック)
藤森氏はパビリオン制作を楽しんでいる(写真:日経クロステック)
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