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 スタジアムやアリーナを、収益性のある多目的施設として運用する。全国の同種施設が直面する課題だ。久米設計は「有明アリーナ」の設計の他、「国立代々木競技場」の改修設計など近年話題のアリーナに関わっている。また、PFI(民間資金を活用した社会資本整備)をはじめ公民連携のプロジェクトにもいち早く取り組んできた。それら経験の中で感じてきたジレンマなどを、安東直専務執行役員・設計本部プリンシパルなどに聞いた。

国立代々木競技場の外観。2021年8月2日、「我が国の戦後建築を代表する作品」として国が重要文化財に指定した。所有者は日本スポーツ振興センター(JSC)。建築年は1964年(写真:日経クロステック)
国立代々木競技場の外観。2021年8月2日、「我が国の戦後建築を代表する作品」として国が重要文化財に指定した。所有者は日本スポーツ振興センター(JSC)。建築年は1964年(写真:日経クロステック)
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左から、久米設計の藤森慶弘・設計本部建築設計部副部長、安東直専務執行役員・設計本部プリンシパル、谷口強志・開発マネジメント本部プロジェクトマネジメント部副統括部長、伊藤央・環境技術本部構造設計部主管(写真:日経クロステック)
左から、久米設計の藤森慶弘・設計本部建築設計部副部長、安東直専務執行役員・設計本部プリンシパル、谷口強志・開発マネジメント本部プロジェクトマネジメント部副統括部長、伊藤央・環境技術本部構造設計部主管(写真:日経クロステック)
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 自治体が整備する場合でも、一定規模のスタジアムやアリーナには民間による運営・管理のノウハウが欠かせないと認識される時代になった。そのため近年は、PFIを前提に、運営者を含む事業者グループが建設段階から募集されるようになった。

 五輪・パラリンピックの東京開催決定などを機に、2015年に創設されたスポーツ庁は、翌16年に「スタジアム・アリーナ改革指針」を公表。スタジアムやアリーナを、地域活性化の起爆剤とする整備を推進している。一定規模の人数を定期的に集客し、飲食、宿泊、観光などを巻き込み得る施設として、公民連携による事業を呼び掛けてきた。

 「有明アリーナ」の基本設計を担当した久米設計専務執行役員・設計本部プリンシパルの安東直氏は、 「国がスポーツを成長産業として扱い、スタジアムやアリーナを地域の収益施設と位置付けた。その結果、まちおこしなどにつなげる意識が発注者側に育ってきた」と語る。

有明アリーナの外観。基本設計・監理・アドバイザリーを久米設計、実施設計・施工を竹中工務店・東光電気工事・朝日工業社・高砂熱学工業JVが担当(写真:日経クロステック)
有明アリーナの外観。基本設計・監理・アドバイザリーを久米設計、実施設計・施工を竹中工務店・東光電気工事・朝日工業社・高砂熱学工業JVが担当(写真:日経クロステック)
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 有明アリーナ自体は、PFIを導入したものではないが、東京都が臨海部のまちづくりを推進するための拠点の1つと位置付けている。建設自体は都が手掛け、運営段階で、アリーナとしては国内初となるコンセッション方式を採用。既に20年3月に、電通など10社が参画する特別目的会社「東京有明アリーナ」が運営者として選ばれている。

 いわゆる「体育館」から脱し、事業的な発展性のある多目的アリーナが指向される流れに関し、久米設計開発マネジメント本部プロジェクトマネジメント部の谷口強志副統括部長は次のように説明する。

 「スポーツ振興に追い風が吹いているのは確かだ。それでも、年間の興行をスポーツビジネスだけに頼るのでは、稼働日数を増やしにくい現状がある。事業収益性を確保するため、施設整備にPFIを導入する考え方が一般的になってきた」

20年前からPFIの専門アドバイザリーを養成

 久米設計は設計事務所としてはいち早く、PFIに積極的に対応してきた。国が「PFI法」を施行した1999年当時から勉強会を重ね、アドバイザリーを担う専門の人材を養成してきた。

 谷口氏はその1人。久米設計におけるPPP(公民連携)およびその一種であるPFIの担当者として、PFI事業に挑む設計チームをサポートしてきた。

 PFI事業の特質として、発注者側の意図をまとめた重要な書類として「要求水準書」が民間事業者側に提示される。プロポーザル応募者としては、事業における自らの役割を把握するために欠かせない書類だ。しかし、内容が多岐にわたるため、ポイントの把握が難しい。

 そうした場合には谷口氏が、設計チームに対して要求水準書の読み解き方を手引きする。「『この辺りは設計のポイントになりそうだ』『この辺りは書類に明記されていないので、発注者に対するヒアリング時に早めに確認した方がいい』といった点をアドバイスする」

 安東氏は、「事業者や施工者などとコンソーシアムを組んで提案するため、当然ながら、当初の建設費と後々の維持管理費や運営費のバランスをみながら提案書を作成する。独り善がりにならず、利用者に近い視点を持ち込みながら設計できる利点がある」と説明する。

 こうしたように設計事務所として知見を蓄える中で、要求水準書の内容が制約になってしまい、施設の機能を十分に上げられない場合があると分かってきた。しかし、要件を定義する側に回ると設計や事業のプロポーザルに応募する資格がなくなる。そのため、せっかくのノウハウを計画の初期段階に反映させることができないジレンマがある。

 建築設計事務所の役割を考えるなら、「その街に合った独自性を生み出すために、条件を設定する段階から関わりたい。現状の仕組みでは、それが難しくなってしまっている」と安東氏は指摘する。

 また、谷口氏は「現状では前例にならった事業が広まりやすいのも、課題の1つだ」と語る。

国立代々木競技場の改修では丹下都市建築設計と共同

 久米設計は「有明アリーナ」の他、64年東京五輪のために建設された「国立代々木競技場」(64年竣工)の改修工事で、丹下都市建築設計と共同企業体(JV)の形で基本設計に携わった。耐震補強など構造面、ユニバーサルデザイン対応など機能面の両方の改修を進めた。

国立代々木競技場第一体育館の外観。耐震補強などのための改修工事の基本設計を丹下都市建築設計・久米設計JV、実施設計・施工を清水建設が担当。改修工事では、基礎杭(くい)を増設した他、外観を保ちながら主塔内部のコンクリートを増し打ちするなどして躯体(くたい)を補強。また、大屋根に関しては、曲げ応力が集中する吊り鉄骨に対してプレートや横補剛材を取り付けるなどして天井としての耐震性能を確保した(写真:日経クロステック)
国立代々木競技場第一体育館の外観。耐震補強などのための改修工事の基本設計を丹下都市建築設計・久米設計JV、実施設計・施工を清水建設が担当。改修工事では、基礎杭(くい)を増設した他、外観を保ちながら主塔内部のコンクリートを増し打ちするなどして躯体(くたい)を補強。また、大屋根に関しては、曲げ応力が集中する吊り鉄骨に対してプレートや横補剛材を取り付けるなどして天井としての耐震性能を確保した(写真:日経クロステック)
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国立代々木競技場第一体育館の内観。右手前は来賓席(写真:日経クロステック)
国立代々木競技場第一体育館の内観。右手前は来賓席(写真:日経クロステック)
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国立代々木競技場第一体育館の内観。耐震補強と同時に、機能を向上させるための改修も実施。車いす利用者の観覧スペースを増やした他、一般客席はゆとりのある配置間隔に変更している(写真:日経クロステック)
国立代々木競技場第一体育館の内観。耐震補強と同時に、機能を向上させるための改修も実施。車いす利用者の観覧スペースを増やした他、一般客席はゆとりのある配置間隔に変更している(写真:日経クロステック)
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国立代々木競技場の来賓用のラウンジ(写真:日経クロステック)
国立代々木競技場の来賓用のラウンジ(写真:日経クロステック)
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国立代々木競技場第二体育館の外観。耐震補強などのための改修工事の基本設計を丹下都市建築設計・久米設計JV、実施設計・施工を大林組が担当(写真:日経クロステック)
国立代々木競技場第二体育館の外観。耐震補強などのための改修工事の基本設計を丹下都市建築設計・久米設計JV、実施設計・施工を大林組が担当(写真:日経クロステック)
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国立代々木競技場第二体育館の内観(写真:日経クロステック)
国立代々木競技場第二体育館の内観(写真:日経クロステック)
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国立代々木競技場第二体育館の内観。アリーナの天井を見上げる(写真:日経クロステック)
国立代々木競技場第二体育館の内観。アリーナの天井を見上げる(写真:日経クロステック)
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国立代々木競技場第二体育館の内観。スタンド席の下部空間をロビーとしている(写真:日経クロステック)
国立代々木競技場第二体育館の内観。スタンド席の下部空間をロビーとしている(写真:日経クロステック)
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