東京都は2021年の五輪・パラリンピックに用いた新規恒久施設(体育施設)における事業展開を22年夏ごろまでに順次進める。収容人数を変更する「後工事」に時間のかかる「東京アクアティクスセンター」のみ、再開業は23年4月ごろに持ち越される。都民利用の水泳場としてお披露目を待つ同施設の設計は、どのような経験を基にしたものだったのか。基本設計に携わった山下設計の河合陽一郎氏に聞いた。
「東京アクアティクスセンター」の設計を担当した河合氏はそれまでにも、社外の多様な関係者と協働するプロジェクトを担当する機会が多かった。その延長線上で、東京都が恒久施設として整備する新たな水泳場の建設に携わることになった。
同氏は、基本設計および設計監理業務を管理技術者の立場で担当。その作業に従事した後に企画営業部門に異動し、2020年12月より山下設計関西支社の副支社長を務めている。
2000年代にはリカルド・ボフィル氏との協働を経験
2000年代に手掛けたプロジェクトとして、06年9月に開業した「ラゾーナ川崎プラザ」(川崎市)がある。東芝、東芝不動産(現・野村不動産ビルディング)、三井不動産が共同で開発したショッピングモールで、東芝川崎堀川町工場跡地の再生を目指したものだ。
当時、プロジェクトを受注するために山下設計がパートナーに選んだのが、スペイン・バルセロナを拠点に世界的に活躍するリカルド・ボフィル氏(1939-2022年)だった。ボフィル氏は日本でも、1992年開業の「ユナイテッドアローズ原宿本店」や同2001年の「東京銀座資生堂ビル」などに関わった実績を既に持っていた。
ラゾーナ川崎プラザでは、企画・基本設計・実施設計監修(外装デザイン)を山下設計とRICARD BOFIL TALLER DE ARQUITECTURAが共同し、実施設計・施工を清水建設が担う体制で進めた。
「単なる商業施設のビルディングタイプとは異なり、川崎駅前におけるまちづくりの要素が強いプロジェクトだった。都市計画的な視点を持って設計できる建築家と組むのが望ましいと考えて本格的にタッグを組んだ」(河合氏)
海外の建築家を招いてファサードデザインの監修を委ねるプロジェクトは少なくない。しかし、ラゾーナ川崎プラザの場合、ボフィル氏に表面的な関わり方を求めるのではなく、「計画の基本的な部分から一緒に考えていった」と河合氏は語る。
「ボフィル氏の仕事は、常に最適なソリューションを提案するために、インプットされる条件に変更があると最初の時点まで戻って再考するスタンスだった。作業量は増えるので、クライアントに理解を求めながら進める必要があり、正直なところ苦労は絶えなかった」(同氏)
川崎の駅前にラゾーナ川崎プラザが完成すると、人の流れに影響を与え、まちの様相は当然変わった。その点では、これまでにない経験になった。河合氏自身、「ラゾーナの設計をきっかけに、よりいっそう敷地の周辺環境と建物の関係に意識が向かうようになった」という。