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 前田建設工業は2022年4月22日、「東京芸術大学国際交流拠点(仮称)整備事業」の建設現場を報道陣に公開した。東京芸大の留学生や学生、教職員らが交流する場として、都内の上野キャンパスにある大学会館の一部を解体し、その跡地に拠点を建設する。建物は地上5階建てで、高さは18.65m。延べ面積は約1500m2

「東京芸術大学国際交流拠点(仮称)整備事業」の建設現場(写真:日経クロステック)
「東京芸術大学国際交流拠点(仮称)整備事業」の建設現場(写真:日経クロステック)
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 この施設の建築的な特徴は、大きく2つある。1つは、鉄骨造と木造の混構造を採用したこと。もう1つは、床の一部に「NLT(Nail-Laminated Timber)」を使っていることだ。NLTは主に、ツーバイフォー工法で用いられる枠組み壁工法構造用製材で製作する、構造部材である。日本ではなじみがないが、北米では以前からよく使われている。

 前田建設工業の調べでは、この施設は国内最大規模のNLT活用事例になるという。カナダの林産品の普及活動を行う非営利団体、カナダウッドの日本事務所であるカナダウッドジャパン(東京・港)の協力を得ながら、NLTの大規模活用に踏み切った。そしてこの整備事業は、国土交通省による21年度の「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されている。

 早速、建設中の施設に上って、NLTが敷き詰められた床を見てみることにしよう。まずは3階に移動する。

地上3~5階の床の一部に「NLT(Nail-Laminated Timber)」を採用する(写真:日経クロステック)
地上3~5階の床の一部に「NLT(Nail-Laminated Timber)」を採用する(写真:日経クロステック)
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NLTを敷き詰めた床は、敷設後すぐに高所作業車などを動かせる。コンクリートの打設ではそうはいかず、NLTの採用は工期の短縮にも役立つ(写真:日経クロステック)
NLTを敷き詰めた床は、敷設後すぐに高所作業車などを動かせる。コンクリートの打設ではそうはいかず、NLTの採用は工期の短縮にも役立つ(写真:日経クロステック)
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 NLTは、日本で普及が加速しているCLT(直交集成板)と同じマスティンバー(複数の木材を組み合わせた集成材)の一種である。主にツーバイフォーで用いられる「ディメンションランバー」を小端立て(こばだて)にして積層し、くぎや木ねじでランバー同士を留め付けた構造部材だ。一般に流通している製材とくぎやねじで製作できるので、コストが安く済む。

NLTの例(写真:カナダウッドジャパン)
NLTの例(写真:カナダウッドジャパン)
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 施設の構造は、1~2階が鉄骨造、3~4階が鉄骨造と木造の混構造、5階が木造になる。上の3階の写真はちょうど、鉄骨造と木造が接する場所だ。鉄骨造の躯体にNLTの床を設け、その上に作業者や我々報道陣が立っている。

混構造を採用した施設の断面図。L字形をした鉄骨造と木造の躯体を組み合わせたような断面になっている。混構造にすることで、約9mのスパンを飛ばした空間を設けられた(資料:前田建設工業)
混構造を採用した施設の断面図。L字形をした鉄骨造と木造の躯体を組み合わせたような断面になっている。混構造にすることで、約9mのスパンを飛ばした空間を設けられた(資料:前田建設工業)
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庇(ひさし)のように飛び出ている部分より上の一部が木造になる。ただし取材時点では、上の断面図にある木造部分の半分以上が未着手だった。先に組み上がっている下階の鉄骨造が目に付く(写真:日経クロステック)
庇(ひさし)のように飛び出ている部分より上の一部が木造になる。ただし取材時点では、上の断面図にある木造部分の半分以上が未着手だった。先に組み上がっている下階の鉄骨造が目に付く(写真:日経クロステック)
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 続いて、5階に行ってみた。木の香りがする純木造の現場で、床には3階と同じくNLTが敷き詰められていた。床をよく見ると、随所に「NLT」と書き込まれているので分かりやすい。

5階建ての施設は鉄骨造と木造の混構造で、5階は全て木造。見えている床はNLTで出来ている(写真:日経クロステック)
5階建ての施設は鉄骨造と木造の混構造で、5階は全て木造。見えている床はNLTで出来ている(写真:日経クロステック)
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床のあちこちに、NLTと書かれていた(写真:日経クロステック)
床のあちこちに、NLTと書かれていた(写真:日経クロステック)
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 利用しているNLTは木製作工場でビス打ちしたもので、それを現場に搬入している。床に敷設後、NLTを固定するため、NLT同士にビスの斜め打ちをしている。