東京芸術大学が上野キャンパス内で進めていた「東京芸術大学国際交流拠点(仮称)整備事業」(以下、国際交流棟)が2022年12月15日に完成した。それに先立ち、同月8日には報道関係者向けに内部が公開された。
国際交流棟は地上5階建てで、高さは約19m。延べ面積は約1500m2である。地上1~2階は鉄骨造なのに対し、3~4階は鉄骨造と木造の混構造、5階は木造になっている。混構造を採用することで、木造だけでは難しい約9mのスパンを実現した。
基本設計は、隈研吾建築都市設計事務所(東京・港)と東京芸術大学キャンパスグランドデザイン推進室が手掛けた。デザイン監修も隈事務所だ。
実施設計は東京芸術大学キャンパスグランドデザイン推進室・施設課と前田建設工業、施工も前田建設工業が担当している。木造や木質化は隈事務所が得意とするところだが、国際交流棟は前田建設工業が木造・木質化を推進した。隈事務所が設計した空間のデザインやボリュームを崩さないようにしながら、構造を混構造に変更している。
前田建設工業はカナダの林産品の普及を行う非営利団体、カナダウッドの日本事務所であるカナダウッドジャパン(東京・港)の協力を得ながら、日本最大規模の「NLT(Nail-Laminated Timber)」を導入した。NLT以外にも建物の随所に木を使い、木造であることを強調しているところに注目してほしい。
この事業は国土交通省による21年度の「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択され、1億1211万9000円の補助金を得ている。
外からは窓際に設置した「木露出耐震ブレース」が見える。建物の強度を高めるだけでなく、木造を印象づける意匠としての役割を担う。
ただ、建物全体の印象としては、木造の混構造にはあまり思えない。正面の一番外側には芸大らしく、アートを展示するためのメッシュ状の金網フェンスが付いているからだ。大きなQRコードが掲げられ、スマートフォンで読み取るとアートの映像なども見られる。その奥にあるガラス窓の内側に木ブレースがあるので、どうしても印象は薄れる。
それでは木造の5階から順に、下に降りながら建物内部を見ていく。5階は研究室や会議室などに使う予定だ。なお、取材は完成の1週間前だったので、部屋の利用はまだ始まっていなかった。
前田建設工業東京建築支店上野東京芸術大学作業所の西川功所長は白い柱と木ブレースについて、「木柱は石こうボードで覆う必要があったので、木ブレースとの間に石こうボード分の隙間をつくっておいた」と説明する。一方、木ブレースは地震時に水平力だけを負担し、火災で損傷しても建物は倒壊しない。そのため耐火被覆で覆う必要がなく、現しにして木を露出できている。
続いて、4階だ。ここは鉄骨造と木造の混構造である。
そして3階。ここも鉄骨造と木造の混構造だ。国際交流のコミュニティーサロンがあり、建物の中核といえる。床の仕上げを含め、木造を感じやすい木質空間になっている。
ここまで見てきた3~5階の床の一部に、NLTを採用している。NLTは枠組み壁工法構造用の製材でつくる構造部材だ。日本ではなじみがないが、北米ではよく使われている。製材をくぎやねじで留め付けるだけで製作できるのでコストが安く、かつサステナブルだ。
床を木造にすると、コンクリートの打設部分が減る。工事の大きな騒音や振動がする期間を短くできる。現場周辺には音楽学部があるため、騒音対策には気を使った。鉄骨より軽い木を使えば、運搬の安全性や効率性も高まるので一石二鳥だ。
残念なのは、せっかく採用したNLTが現しになっておらず、仕上げに隠れて全く見えなくなっていること。3階の床に見えている木材は、NLTではない。