全1294文字
PR

 日本財団が2020年から推進しているプロジェクト「THE TOKYO TOILET(ザ・トウキョウ・トイレット)」が、23年では最初になる新しい公共トイレを公開した。同年1月20日、東京都渋谷区千駄ヶ谷4丁目に「裏参道公衆トイレ」が完成、同日午後に供用を開始した。

東京都渋谷区千駄ヶ谷4丁目で供用を開始した「裏参道公衆トイレ」。明治神宮の代々木口(左奥)に近く、JR埼京線やJR山手線の線路も見える(写真:日経クロステック)
東京都渋谷区千駄ヶ谷4丁目で供用を開始した「裏参道公衆トイレ」。明治神宮の代々木口(左奥)に近く、JR埼京線やJR山手線の線路も見える(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 裏参道公衆トイレは、THE TOKYO TOILETにおける14カ所目の公共トイレである。設置場所は、東京メトロ副都心線北参道駅またはJR代々木駅から、それぞれ徒歩数分の距離にある。明治通りの北参道交差点からすぐで、明治神宮の代々木口も近い(住所は渋谷区千駄ヶ谷4-28-1)。

 デザインしたのは、オーストラリア出身で英ロンドン在住のインダストリアルデザイナーであるマーク・ニューソン氏だ。米アップルや仏エルメス、米ナイキなどを顧客に持つ、世界的に有名なデザイナーである。アップルではスマートウオッチ「Apple Watch」のデザインに関わった。

マーク・ニューソン氏(写真:Prudence Cumming Associates, Gagosian)
マーク・ニューソン氏(写真:Prudence Cumming Associates, Gagosian)
[画像のクリックで拡大表示]

 そんな彼がデザインした公共トイレは、日本人にはどこか懐かしく感じられるものだった。四角形と三角形を組み合わせた、子どもが描く家のような形をしている。北参道の交差点から裏参道公衆トイレに向かって歩くと、コンクリートの壁に茶色の三角屋根を架けた家のような建物が高架下に見えてくる。それがニューソン氏の公共トイレだ。

 トイレだと知らなければ、高架とトイレのコンクリートが交ざり合って見え、高架下にある倉庫のような付属施設に思えるかもしれない。ニューソン氏は街に溶け込むデザインを採用したといい、裏参道公衆トイレが東京の一部になることをイメージしたという。完成した時点で既に、その狙いはおおむね達成できているかのような周囲とのなじみ具合である。

トイレは高架下にある。敷地の石垣は今回建設したもの(写真:日経クロステック)
トイレは高架下にある。敷地の石垣は今回建設したもの(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 ニューソン氏は今回のデザインは、日本の伝統的な建築からの引用でもあると明かしている。その象徴が、銅製の「蓑甲(みのこ)屋根」である。日本の神社仏閣や茶室などに見られる蓑甲屋根が心地よさや安らぎを感じさせるものになるのではないかと考えた。

外壁をコンクリートで覆った、どっしりとしたたたずまいの公共トイレ。屋根はピラミッド型をした銅製の「蓑甲(みのこ)屋根」(写真:日経クロステック)
外壁をコンクリートで覆った、どっしりとしたたたずまいの公共トイレ。屋根はピラミッド型をした銅製の「蓑甲(みのこ)屋根」(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
トイレは坂の途中に位置し、階段を数段上る。道路から直接アクセスできるルートもある(写真:日経クロステック)
トイレは坂の途中に位置し、階段を数段上る。道路から直接アクセスできるルートもある(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 トイレのディテールで目を引くのが、多用している曲線だ。コンクリートの壁で構成された建物の四つ角や入り口の輪郭を曲線にしている。トイレを設計・施工した大和ハウス工業が苦労した点である。同じように、屋根も角は曲線を描く。

 裏参道公衆トイレは遠くから見ると、コンクリートの固まりのようで武骨な印象を受ける。しかし近づくと、あらゆる角を曲線にして柔らかで軽やかな印象を与えている。

トイレの入り口には曲線の輪郭を採用(写真:日経クロステック)
トイレの入り口には曲線の輪郭を採用(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
屋根の角も曲線を描く(写真:日経クロステック)
屋根の角も曲線を描く(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]