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 日本財団が2020年から推進しているプロジェクト「THE TOKYO TOILET(ザ・トウキョウ・トイレット)」が、いよいよ大詰めを迎えている。23年2月22日、東京・渋谷の幡ヶ谷3丁目に「幡ヶ谷公衆トイレ」が完成し、同日午後に供用を開始した。15カ所目の公共トイレで、残りあと2カ所となった。

 過去15カ所のトイレを全て取材してきた記者の感想として、幡ヶ谷公衆トイレはこれまでで最も「近くで暮らす住民のためにつくった」と感じさせられる公共トイレになっている。建物の意匠的な面白さよりも、公共トイレでありながら多目的な地域施設の在り方を追求した設計が見どころだ。多面体の形状も独特である。

東京都渋谷区幡ヶ谷3丁目で供用を開始した「幡ヶ谷公衆トイレ」(写真:日経クロステック)
東京都渋谷区幡ヶ谷3丁目で供用を開始した「幡ヶ谷公衆トイレ」(写真:日経クロステック)
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 敷地は渋谷区の北側、中野通りと水道道路の交差点の角に立つ(住所は幡ヶ谷3-37-8)。家やマンションが立ち並ぶ住宅街の幹線道路沿いのため、人と車の行き来が非常に多い場所だ。

 そんな所に、正面の幅が約12m、高さが約5mある巨大な公共トイレが完成した。かなり目立つ。人通りが少ない場所に隠れるように立つ公共トイレとは、正反対な立地である。

幡ヶ谷公衆トイレは中野通りと水道道路の交差点の角に立つ(出所:東京大学DLXデザインラボ)
幡ヶ谷公衆トイレは中野通りと水道道路の交差点の角に立つ(出所:東京大学DLXデザインラボ)
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 大きさで言っても、THE TOKYO TOILETの中で最大規模だろう。建物手前のアプローチを含めると、面積は約120m2ある。施設の真ん中がオープンスペースになっており、複数のベンチがある。その周りにトイレを配置した。

野外ホールのようなたたずまいをした施設。公共トイレには見えない(写真:日経クロステック)
野外ホールのようなたたずまいをした施設。公共トイレには見えない(写真:日経クロステック)
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施設中央のオープンスペース。広さは約40m<sup>2</sup>ある。3つ設けたトイレスペースの合計よりも、約2倍の広さを施設の真ん中に確保している(写真:日経クロステック)
施設中央のオープンスペース。広さは約40m2ある。3つ設けたトイレスペースの合計よりも、約2倍の広さを施設の真ん中に確保している(写真:日経クロステック)
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施設の正面左手にあるユニバーサルトイレ。内部は三角形の平面をしている(写真:日経クロステック)
施設の正面左手にあるユニバーサルトイレ。内部は三角形の平面をしている(写真:日経クロステック)
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奥にある男女共用トイレ(写真:日経クロステック)
奥にある男女共用トイレ(写真:日経クロステック)
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右手の男性用トイレ。小便器が2つある(写真:日経クロステック)
右手の男性用トイレ。小便器が2つある(写真:日経クロステック)
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 デザインしたのは、東京大学DLXデザインラボで教職に就くマイルス・ペニントン氏だ。17年から日本で生活している。ペニントン氏はDLXデザインラボの学生や教員を巻き込んで、「幡ヶ谷公衆トイレはどうあるべきか」を徹底研究した。大学教授らしいアプローチであり、数年越しで公共トイレと向き合ってきた。

幡ヶ谷公衆トイレをデザインした東京大学DLXデザインラボのマイルス・ペニントン氏(写真:日経クロステック)
幡ヶ谷公衆トイレをデザインした東京大学DLXデザインラボのマイルス・ペニントン氏(写真:日経クロステック)
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 ペニントン氏は幡ヶ谷公衆トイレを、「トイレもある施設」と表現する。名称は「・・・With Toilet」だ。「この場所をコミュニティースペースにしたかった。トイレはたまたま付属しているにすぎない」(ペニントン氏)

 中央のスペースは、ギャラリーであり、ポップアップ店舗であり、集会場であり、待合室でもある。内部の白い壁をスクリーンとして使えば、パブリックビューイングや上映会もできる。ベンチに座ってランチをしてもいい。使い方は自由だ。

幡ヶ谷公衆トイレの平面図。四角形のアルファスペースに、3つの三角形をしたトイレブースを接続した形がベースになっている。ラボのメンバーには設計者がいるので、基本設計まで自分たちで手掛けた。実施設計・施工は大和ハウス工業(出所:東京大学DLXデザインラボ)
幡ヶ谷公衆トイレの平面図。四角形のアルファスペースに、3つの三角形をしたトイレブースを接続した形がベースになっている。ラボのメンバーには設計者がいるので、基本設計まで自分たちで手掛けた。実施設計・施工は大和ハウス工業(出所:東京大学DLXデザインラボ)
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東京大学DLXデザインラボのメンバー(写真:日経クロステック)
東京大学DLXデザインラボのメンバー(写真:日経クロステック)
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