遠くからでも目立つ、真っ白な曲線形の建物。建築家の藤本壮介氏がデザインした公共トイレが、東京・渋谷の往来が激しい幹線道路沿いに姿を現した。
日本財団が2020年から推進してきたプロジェクト「THE TOKYO TOILET(ザ・トウキョウ・トイレット)」が、ついに完結した。東京都渋谷区にある公共トイレを合計17カ所、建て替えるというものだ。著名な建築家やデザイナーが参加し、個性的な公共トイレが次々と登場して話題になった。
最後となる17カ所目は、藤本壮介建築設計事務所(東京・江東)の代表取締役である藤本氏がデザインした「西参道公衆トイレ」である。2023年3月24日に供用を開始した。
明治神宮の西門前から甲州街道(国道20号)までの通りは、西参道と呼ばれている。トイレは、西参道が甲州街道とぶつかる手前に位置する(住所は渋谷区代々木3-27-1)。甲州街道の頭上には、首都高速道路が走っている。
トイレは西参道と交差するように整備された、公園のような「代々木緑道」に接して立つ。供用開始日は緑道や周辺の桜が満開に近い状態で花を咲かせていた。
この施設の特徴は、トイレの手前に「公共の水場」として手洗い場を設けたことだ。蛇口が並ぶさまは、かなり珍しい。「トイレを使わなくても、歩道側に立って手を洗ったり、水をくんだりできる」(藤本氏)。水場の周りに人が集まり、ちょっとしたコミュニケーションが生まれる。現代版の「井戸端会議」のような場になるかもしれない。
蛇口が並ぶ水場を真ん中がへこんだ曲面にしたのは、色々な高さに蛇口を設けるためだ。子どもや車椅子利用者は低い位置、大人は高い位置の蛇口を使う。こうしてみんなで水場を共有することを、藤本氏は「1つの器」として表現した。
同時に、「街中に泉をつくりたかった」と藤本氏は語る。欧州の街には所々に泉や噴水があり、住人の憩いの場になっている。
公共トイレ自体は非常に小さな施設だが、「私は最小の公共建築だと思って取り組んでいる。『公共性とは何か』を考えるうえで学びの機会になる」(藤本氏)。西参道公衆トイレは延べ面積が40m2ほどで、まさに「最小の公共建築」と呼べる規模だ。
建物の入り口は、南北に2カ所。歩道のどちらから来ても入りやすくしている。アーチをくぐって、中に入る。