昨年12月から報道が相次いだリニア中央新幹線の工事を巡る談合疑惑。それから2カ月、談合があったか否かも含め、いまだ事件の全容は明らかになっていません。

 一昔前の談合事件の構図は、いわば「分かりやすい」ものでした。建設会社には「業務屋」と呼ばれる社員がいて、彼らが話し合ってあらかじめ落札者を決めます。建設会社にとっては、高い落札率で確実に落札できる一方、国民は結果的に高い買い物をさせられることになります。談合の「加害者」は建設会社で「被害者」は国民という構図が成立していました。

 しかし、大手建設会社による2005年の「脱談合宣言」以降、業務屋という役割は消え、談合組織も解体されたとみられていました。そんななかで持ち上がったリニア談合疑惑。強制捜査が入った大手4社の間で何が行われたのか、リニアという民間発注の工事で何が談合に当たるのか、加害者は誰で被害者は誰なのか。従来に比べて構図は分かりにくくなっています。

 そこで、日経コンストラクション2月26日号では、特集「リニア談合、悪いのは誰か」を企画。読者の意識調査を交えながら、リニア談合疑惑から見えてきた問題点を整理しました。

日経コンストラクション2月26日号特集「リニア談合、悪いのは誰か」から
日経コンストラクション2月26日号特集「リニア談合、悪いのは誰か」から
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 大手4社は工事に関して、他社と情報交換していたことを認めていると報道されています。リニアのような難工事は技術的な側面が強く、「業務屋」がいないなか、他社との情報交換は技術系の役員や社員が中心になったと考えられます。業務屋と呼ばれる“プロ”が仕切っていたかつての談合とは様相が異なるわけです。

 では、技術的な情報交換なら、談合にならないのでしょうか。例えば事業者同士で集まった場で、A社がある工事をぜひ受注したいと意欲を示したとする。受注者を決める明確な話し合いが無くても、結果としてA社が工事を落札した――。こうした場合、事業者間で合意があったと見なされ、談合として認定される場合があるといいます。独占禁止法に詳しい森・濱田松本法律事務所の宇都宮秀樹弁護士は「技術的な話し合いだけだとしても、他社を交えた会合にはコンプライアンス(法令順守)担当者が同席するなど、不正がないことをしっかり確認できる体制で臨むことが重要だ」と注意を促します。

 建設会社は他社とJV(共同企業体)を組む機会も多く、他社の社員と技術的な情報交換をする場面は多いでしょう。かつては談合の“プロ”でなければ談合と無縁だったかもしれませんが、談合の構図が変わった今、一技術者が談合の首謀者になってしまうこともあり得るのです。